第26話 TV収録

TV収録当日。

西野さんと一緒にテレビ局に入る。番組の控え室にはすでに何人かの先輩方がいた。

番組自体は収録の為、歌の順番待ちはない。別の日に撮影する歌手もいる位だ。

「おはようございます。レイヴンプロモーションの上原千秋です。今日はよろしくお願いします」

一番下っ端な俺は控え室やスタジオで挨拶をしてまわる。

番組の責任者やスタッフの方々、他の芸能事務所の方々。やっぱり印象は挨拶で決まるからね。

お、あの女性歌手の名前には聞き覚えがあるぞ。恵がファンって言ってた人だ。サイン貰えないかな。

「上原君、調子は?緊張は?お腹痛くない?」

西野さんは心配性だ。

「全然問題ないです。これからの事を考えると、多少緊張があったほうが気合入ります。ところであの歌手のサインを貰いたいんですが、勝手に交渉しちゃだめですよね」

「あなた全然緊張してないじゃない。心配して損したわ。彼女のファンなの?サインは私からお願いしとくから」

「ありがとうございます。では新人らしく控え室の入口で大声で挨拶しながら時間つぶします」

俺は控え室のドア付近に座って、入ってくる人に大声で挨拶しながら時間をつぶす。少し、振り付けの練習をしようかとも思ったが、今更してもかわらないかな。

1時間は待っただろうか?控え室のオレンジジュースを飲みすぎて2回もトイレ行ってしまった。

「上原さん、撮影準備入りまーす」

スタッフが迎えに来てくれた。

おぉ、ここで歌うのか。あのステージの装飾はカッコいいな。辺りをキョロキョロと見渡してしまう。

司会者の下に連れていかれ、挨拶をしたあとにセリフの確認。なんとこの番組、司会者や歌手のセリフは全部台本どおりなのである。

というか、ほとんどの場合セリフがあると思ったほうがいい。セリフが決まってない場合でも、話す内容は指定されるみたい。

フリーダムに話をしたり、アドリブを入れていいのは大物タレントだけのようだ。ちょっと残念。

カメラが回った。司会者と自然体でセリフのやり取りをする。まぁ、セリフ決まってたら失敗しないな。

カメラが止まった後はセットに移動して歌を撮影する。ちなみに今回は新曲を発表する。歌ったのはもちろん新曲の”MARK YOU”歌った。

TV番組とかだと、観客の拍手が聞こえたりする。俺は当然、観客がスタジオにいるものと思っていた。しかし、この番組は拍手音の合成だった。何か想像と随分違ったが文句は言えない。

歌は良かったと思う。元気でカメラ目線もバッチリのはず。観客もいないのでスタジオで練習と同じように歌っただけだ。

「上原君、良かったわ。あなたは鉄の心臓なのかしら。すごく自然体で歌えてた」

「緊張はしてますけど、過去もっとすごい緊張を体験したので」

「TVより緊張って何よ」

「彩奈と恋人設定で撮影した時です。初めての。あの時は胸がずっとドキドキしてました」

「それって撮影に緊張じゃなくて、彩奈という女性にドキドキしてたんでしょ?」

「どうなんでしょうか」

帰りの車の中で頼んでいた女性歌手のサインをもらった。西野さんすげー有能です。



翌日

朝の教室に元気よく入る。

「みんなおはよう」

大声の無差別挨拶が標準になってきた。スタジオとか誰が偉い人か分からないから、無差別に大声で挨拶してまわるし。すれ違う人全員に挨拶してるし。

彩奈と恵はいるな。よし。

「おはよう2人とも」

「「おはよう」」

彩奈には、恵がファンの女性歌手が同じ番組に出てて、サインを貰ってきたことの話はしてる。

「おい恵、聞いて驚け、そして俺を崇めよ」

俺の言葉に恵は、ハハーッと崇めだした。なんか違う、まぁいいか。

「お前の為にスペシャルなものを用意した。だが俺はそれを家に忘れた」

何それーと頬を膨らます恵。なんか可愛いぞ。

「お前、今日の帰りに俺の家に寄れ。いいものをあげよう」

「何~。”夢で逢えたら”?」

「違うよ!それも素晴らしい一品だが、お前に用意したものもかなり素晴らしいぞ」

「気になるー。頂戴」

「だから家に忘れてきたんだって」

「なんでそんな大事なものを忘れるかなぁ」

彩奈も一緒にくるか誘ってみたが、今日は事務所に行くそうだ。ちょっと残念かな。


放課後、恵の一緒の帰り道。

「お前、家来るの久しぶりだな」

「中学3年が最後かな。去年は行ってないから。千尋ちゃん元気?」

「元気すぎて困る。騒がしすぎだ。もう中3なんだから落ち着いてもいいだろ」

「元気でいいじゃん」

まぁ、いつも落ち込んでるよりはいいけど。

「男女2人で歩いてるとデートみたいだね」

「知らない人が見ればそうだな」

2人がくっついて歩けばそう見えるだろう。今の俺たちもそう見えるかもな。


家に着いたが家族は誰もいなかった。

「上がれよ。飲み物取ってくるから部屋にいて」

「はーい」

恵は部屋に向かった。

冷蔵庫から麦茶をだしてコップに注ぐ。ポテチもつけてやるか。

俺はそれを持って自分の部屋に向かった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る