第6話 告白タイム
さて夕飯の支度である。
夕食のメニューはカレーとサラダ。男子が薪に火つけ、女子がカレーの下ごしらえだ。
かまどに薪をぶち込んで着火。敏彦と浜崎君にすべてお任せ。恵と小泉さんが野菜の切る。残った俺と安西さんは米炊き準備だ。
「安西さんはご飯の炊き方わかる?」
「事前に配られたプリントは見たけどやったことないかな。千秋君は?」
「俺もプリント見ただけ。でも家で炊飯器にコメをセットしたことはある。だから平気だと思う」
「なんとかなるよね」
米を研いで水を入れるだけだ。分量をちゃんと計れば大丈夫だろう。
「あ、あと千秋君。私の名前呼ぶときは彩奈でいいよ。安西だとなぜか違和感ある。私も千秋君て呼んでるし」
「そう?わかったよ彩奈。俺も千秋君じゃなくて千秋でいい。焦がさないで美味しい米を炊こうぜ」
名前呼び許された。男子で名前呼びしている人はいない。つまり特別待遇って事だよな。ひゃっほい!
焚きつけも完璧。米もお焦げありだがばっちり。カレーも水っぽくない。サラダもフレッシュ。完璧じゃないか。
「ものすごく完璧じゃない?お焦げにカレーも悪くないし」
敏彦が絶賛する。うん、実際に美味いしな。
「あたしの料理の技術すごくない?千秋はもっと褒めてもいいんだよ」
「いや、恵ひとりだったらわかんないぜ。小泉さんのテクニックのおかげかもよ」
「そんな~。あたしだってやれば出来るんだよ。ねぇ~、彩奈ちゃんもそう思うでしょ?」
「小泉さんって料理上手だよね」
「ひどいっ!」
まあ、恵が頑張ってたのはみんな知ってるけど。つい反応が面白いから揶揄っちゃう。
彩奈も笑いながら、
「恵が料理上手なのは知ってるよ。千秋だってしてるでしょ」
「あぁ、そうだな。昔から料理作ってるって話聞いてたしな。作ってもらった事はないけどね」
「彩奈は作ってもらった事あるの?」
「遊びに行った時にホットケーキなら。美味しかったよ。ハチミツとバターたっぷりでふわふわ」
皆が少し感心していると、敏彦が俺と彩奈を交互に見ながら、
「あれ、何で千秋と安西さんは名前で呼び合ってるの?」
チッ、気がついたか。
「あれだよあれ、フィーリング!?深い意味はないぞ。自然とそうなっただけだ」
「そう。特に意味はないけど。なんとなく千秋って呼び方がしっくりきただけです」
恵はニマニマしながら、
「えー、本当はお付き合いしてるんじゃない?」
火種を投入してきたー。
「呼び方なんて当人同士が納得してればいいんだよ。細かいことは気にするなって」
敏彦はずるいと言いながら、俺も名前で呼び合う?と聞いたが、気分じゃないとNGくらってた。
残念だね。
食事後、キャンプファイヤーの時間。
広場には生徒たちが集まっている。火を見ると気持ちが昂るよね。男子グループは意中の女の子にアタックしてるし。
カップルはより親密になってる。羨ましです。
俺は敏彦・浜崎君・小泉さんの4人で火のそばに座り、そんな彼らを見学して盛り上がってた。
彩奈と恵は男どもに呼び出されてた。告白タイムなんだと思うけど無理だと思うよ。2人とも知らない人と、とりあえず付き合いますってならないだろうから。
最初に戻ってきたのは恵。
「いや~、告白とか久しぶりにされちゃったよ。みんな元気だね~」
「なんだ、恵は断っちゃったの?」
「知らない人に告白されてもね。名前も知らない人だったし。嬉しいけどね」
イケメンならどう?って聞いたけど相性重視って返答がきた。やっぱ相性が良くないと長持ちしないよな。
「千秋には告白なかったの?」
「残念ながらないな」
俺には春がこないのだろうか。
「千秋は新田ちゃんや安西ちゃんと仲良すぎだからな。どちらかと付き合ってると思われてるんじゃね?」
浜崎君も小泉さんも、それあるかもと言う。
「恵は幼馴染だし彩奈は友達だよ?恋人のそれと違うと思うけど。恋人なら手をつないだり、目で会話したりするでしょ。見ててわからないかな」
「わかんねーよ。って言うか、新田さんは手はつないでないけど目では会話してるよな。なんか言わなくてもわかるみたいな?安西さんとは唯一の男友達。知り合いとかじゃなくて、ちゃんと仲いいやつ」
そう見られてるのか。まぁ、人にどう思われても俺は俺だけどね。
「あ、彩奈ちゃん帰ってきた」
恵の言葉に振り向くと、何故かむっとした表情で帰ってきた彩奈がいたので声をかけた。
「おかえり彩奈。素敵な男性はいなかったのか?何人位に告白されたんだ?」
恵の横に腰を下ろして口を開いた。
「6人。もう、疲れるだけです。なんで離れたところに並んでるの?見えてるし。あの人たちは安西彩奈が好きなんじゃなくて、モデルの安西彩奈が好きなんだよ。モデルだから、女優だから好き。有名人だから好き。そんな女が彼女の俺すごいって言いたいだけじゃないの?サイン頂戴って言った馬鹿もいたんだよ?もう誰でもいいんでしょ」
あー、荒れてるなぁ。
「本当に彩奈ちゃんが好きなら逆効果だよね。演じている彩奈ちゃんが好きなんだ。彩奈ちゃんはクールで孤高に見えるけど、人付き合いが苦手でポンコツなところが可愛いのにね~」
さりげなくディスられた彩奈は恵をポカポカ叩いている。確かに普段と雰囲気が全然違うな。
モデルや女優の安西彩奈は、女子高生の安西彩奈が演じてるだけか。なるほど確かにそうだ。ちゃんと自分を見て理解してくれる相手じゃなきゃダメだよな。うんうん。
「それに今は恋愛とかは興味ない。仕事も楽しいし、恵たちと一緒なのも楽しい。好きなことを好きにやってる今が好きなの。この先どうなるかわからないけど、今はこのままでいい」
俺はどうなんだろう。恵たちとバカやってるのは確かに楽しい。恋愛も全く興味がないわけじゃないけど相手がいない。まぁ、焦ってもしょうがないと自分に言い聞かせるとしよう。
恵が彩奈をなだめてる間にキャンプファイアーは終わった。
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