第4話 千秋布団は最高


~安西彩奈~

高校生活も2年目。

今年も仲のいい恵と同じクラスになれてよかった。

仕事の関係で放課後や休みの日は中々友達と遊べないので、親しい友達は少ない。

恵はそんな私をぐいぐいと引っ張ってくれる気心知れる数少ない友達だ。

今回のクラスには恵がよく話をしてきた上原千秋君もいた。

彼女は私に上原君を紹介してくれた。恵の友人だからイイ人なんだろう。

私は仕事柄男性にモテる。自分の容姿に自信を持っているし、それ以上でありたいと努力をしているつもりだ。好意を持たれるのは嬉しいことだが、しつこい男性が多いのも事実。話もしたことない男性に、「遊びに行かないか?」「好きです付き合ってください」「ファンです。友達になってください」なんて言われても困る。

だってみんなは、モデルの安西彩奈が大好きなのだから。女子高生の安西彩奈と仲良くなっているのは恵。あの子の遠慮のなさは気持ちがいい。私に気を使わない、特別扱いしない、そして雑な対応を平気でする。私は嬉しかった。何も感じなかった高校生活が楽しくなった。

その恵みがベタ惚れしてる上原君に少し興味がでてきた。恵がなにかと彼にちょっかいを掛けているので、一緒にいる時間が多いからだ。

一緒にいればわかる事が沢山ある。彼は他の男性と違い、私を特別に扱わない。恵と同じような自然な対応。そして以外にも気配り上手。褒めることに長け、居心地のいい時間をくれる。そんな男性だった。

「彩奈ちゃん、千秋ってイイ人でしょ~。あれ凄い女の子にもてるんだよ。本人は全く気付いてないけどね。小学校の時も中学校の時もクラスの女の子皆が千秋の事好きだったもん」

「恵は彼の事が好きなの?」

「大好きだよ。でも愛してるの好きかはわからない。家族の好きに近いのかな?自分でもよく分かってない」

楽しそうに話す恵をみて、上原君にちょっと興味がでてきた。



彼と恵と3人で映画を見に行った。

私が出演していた映画だ。私はストーリーも結末も知っている。なので物語を楽しむのではなく、出演者の演技テクニックをチェックしていた。他の出演者と自分との違い。今回の演技をもっと良くするにはどうすればいいか。色々な事を考えて映画を見ていたのだ。

物語が終盤に隣からすすり泣く声が聞こえる。横をみると上原君がハンカチを握りしめ泣いていた。思わず2度見してしまった。ちょっと微笑ましかった。

監督もこれだけ泣いてくれる観客がいたら嬉しんじゃないかな。潤んでるじゃなくてガチ泣きだもん。

映画を見終わってから、しばらくく放心状態だった上原君に演技を褒められた。

お世辞で話してる感じはなかったので素直にお礼を言った。関係者以外に褒められると嬉しいね。

その後、一緒にランチをする。家族や事務所の人以外で男性と食事したの初めてかも。男性に身構える私だけど、意外にリラックスして食事ができた。恵がいたせいもあるかな。

食事中に私が将来2人を雇う話になっていた。恵はマネージャーで上原君は運転手だって。しかも上原君は時給900円のバイト。笑っちゃった。



今の学校はものすごく楽しい。これは恵のおかげだね。相変わらずしつこい男子生徒はいるけれど、それがあっても恵たちと過ごす毎日が楽しい。仕事に疲れても、明日また頑張ろうって気持ちになる。

今度ある校外学習も楽しみ。班決めで恵は上原君の優しい所をみた。消極的で人に話しかけるのが苦手だと思う生徒に声を掛けていた。いや、声掛けじゃなくて、あれは連行だね。

私があの立場だったらもの凄く嬉しいと思う。好きになっちゃうかも。

そしていつの間にか上原君の事を、千秋と名前で呼んでしまった。間違いなく恵のせいだ。ちょっと恥ずかしかったけど違和感はないね。




校外学習の当日やってしまった。

私は千秋君とバスの席が一緒だった。前日の仕事の疲れのせいで、バスに乗ってすぐに眠ってしまったのだ。寝るのは別にいい。疲れてたからしょうがない。でも問題は別にある。

「あ、起きた。疲れてるようだったね。大丈夫?」

千秋君に話しかけられたときは頭がボーっとしていた。段々と思考がクリアになってきて自分が状態が理解できた。

「寒そうだったから上着かけておいたよ」

そう、私は千秋君の肩に顔をうずめて寝ていたのだ。そして上着の下では彼の手に自分の腕をしっかりと絡め、そして手を握っていた。多分無意識にやっちゃったんだと思うけど、これは恥ずかしすぎるでしょ。クラスメイトの男の子にうずくまりながら寝てたなんて。

「彩奈ちゃん、お疲れだね。千秋布団の寝心地はどうだった?」

「最高です」

こんがらがった頭で、恵の質問に咄嗟に言ってしまった。そして自分の発言に顔が真っ赤になる。私、何言ってるんだ?きっと耳や首まで真っ赤だろう。

「じゃなくて、ご迷惑おかけしました」

とりあえず言い直した。千秋君は疲れてるのだからしょうがない、よく眠れたなら俺も嬉しいよと言ってくれた。

でもよかった、知らない人じゃなくて。男性だけど恵の親友の千秋君ならセーフでしょ!?優しい人だし。


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