第3話 班決め
うちの学校には校外学習がある。
湖畔のキャンプ場で1泊2日の学習。まぁ、普通にキャンプだ。カレーを作って湖畔で学習(遊んで)、山登り(強制)なんかを行う。新しいクラスに慣れる頃に、クラスメイトとの絆を深めようって事なんだろう。多分。
校外学習は5~6人の班ごとに行動する。まずは班決めで一波乱ありそう。主に安西さん絡みで。
「敏彦、俺と組もう。というかお前しか組める人いない」
「さみしいな千秋。いいぜ、俺と組むか。他にも誘わなきゃならん」
班員は男女半々で組むことになっている。班決めができない人は先生が強引に組ますと言ってた。
男子生徒は安西さんに殺到するだろう。そして玉砕するんだな、わかります。
恵と安西さんのほうを見ると、予想通りの光景が目に入る。安西さんは笑ってない笑顔で動かず、恵は「え~」とか「どうしよう~」とか言っている。困ってるようだ。
そして助けを求めるようにこちらを向き、俺と目があった。
「ごめん、私たちは千秋と同じ班になる約束してたんだよ。せっかく誘ってくれたのにゴメンね」
おい、いつそんな約束したんだ。
恵と安西さんが俺たちのほうに移動してきた。
「いや~、沢山の男子に囲まれちゃったよ。私の美貌は罪作りだね」
「いや、お前じゃないだろ。どう考えても安西さんだと思う。そしてお前は嘘という罪を作った」
「が~ん。そうだったのかぁ~」
安西さんもそんなやり取りにニッコリ。もっと笑っていいんだよ。
そして敏彦が、
「4人だと人数足りないよな。あと1~2人誰か入れないと」
教室を見渡すとすでに3~4人のグループがいくつもできてる。
刺すような嫉妬の視線を感じながら追加メンバーを探す。誰かいないかな。
クラスの片隅にぼっちの男子と女子を発見!
「恵、確保だ」
「らじゃ~」
恵はまだ誰とも組んでいない2人を確保してきた。
男子は浜崎秋司(はまさきしゅうじ)君。多分大人しい性格。大体一人で椅子に座ってるタイプ。
「浜崎君、同じ秋の名前つながりだ。仲良くしてくれたら嬉しい」
「こちらこそ。グループに誘ってくれてありがとう。どうすればいいか迷ってたんだ」
浜崎君と握手する。
もう一人の女子は小泉佳子(こいずみけいこ)さん。
「小泉さんもよろしく。あんまり話したことなかったけど、これを機に仲良くしてくれたら嬉しい」
「こちらこそよろしくお願いしまうす」
小泉さんと握手をした。
2人と握手する姿を見て、恵がおもむろに手を突き出してきた。
「あたしも握手する」
恵はそう言って全員と握手した。その流れで全員で握手会。
「安西さん、美味しいご飯を作ろうな」
「頑張るわ。千秋君のかっこいい所見せてね」
お、上原君じゃなくて千秋君になってる。名前で呼んでくれるなんて。恵を通して随分と話をしてきたので慣れてきたんだな。いい傾向だ。
「なんか皆に見られてるね」
浜崎君が小声で言った。
「そりゃクラスの有名人2人が一緒の班だからな。そういうものだと思ってあきらめろ」
「上原君はいつもこんな視線に晒されてるんだね」
「そのうち慣れる。むしろ気持ちいい。というか気にしてもしょうがないからね」
それから俺たちは6人で持ち物や野外料理のメニューなどを話し合った。
校外実習の当日。
朝早くに学校をバスで出発した。バスの座席は班ごとに固まって座席を確保しており、俺は安西さんと同じ席になった。最初は敏彦と座る予定だったのだが、恵が席を割り振っていた。
「はい、岡田君はここ。横に浜崎君ね。私と小泉さんは2人の後ろ。私たちの後ろに彩奈ちゃんと千秋ね」
俺と安西さんは一番後ろの席に座った。恵が気を利かせている?よし、あとで飴玉でもやろう。
安西さんは前日の仕事のせいか少々疲れてる様子。向こうで楽しむためにも寝たほうがいいと言って寝かせた。
バスが発車してからすぐに寝ちゃった安西さん。やっぱり疲れてたようだ。
寝ている安西さんの横でぼけっとしていた俺。徐々に俺にもたれかかってくる安西さん。俺の肩に頭を預ける体制になる。横目でみるとやっぱり可愛い。しかも良い香り付き。
前に座っていた恵が振り返りその様子を沢山写真に収めていた。あとで写真貰おう。
寝ている安西さんが風邪をひかないように上着をかけてあげる。暖かくて気持ちいいのか、上着と俺にうずくまるように寝る安西さん。そして上着の下で、何故か俺の手を握っている。ありがとうございます。
現地に着くまでの2時間弱の幸せな時間を、俺はずっと噛みしめていた。
手柔らかいな。最高でーす!
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