第7話 思い出に忍び寄る影
「兎の耳は大きいねえ」
母の優しい声が、どこかでそう囁いた。
「それは、怖がりのせいよ。いつも耳を澄ませているので、大きくなってしまったの」
虎之介の視線の先に、屏風があった。
そこに描かれた草花のあいだから何羽も兎がのぞいていた。
彼の若くして亡くなった母は、ある寺に描かれた兎の絵を好んだ。そして、それを模した絵を手元に置き、ちいさな虎之介にもときおり見せてくれた。
母の好き嫌いで知っているのは、それだけだった。あとは食べものや衣服の好み、そして人についての好みも、いまではなにも分からない。
真喜の祖母、明信院には生母の身分が低い異腹の妹がいた。
虎之介の母は、その娘として生まれた。
そして、本人の希望など少しも考慮されることなく、ちまちました政治的なやりとりの結果、彼女は小国の藩主の後添えとして嫁ぎ、虎之介が生まれた。
しかし、嫁取りに要した経費も回収できていない(と藩主および重臣らは考えた)うちに、はやばやと彼女は亡くなった。それを認めたくない失敗と思ったのか、あるいは今後の縁談に差し障るとでも考えたのか、死後の母は、まるでこの世にいなかったように扱われ、短い一生を弔われることはなかった。
母は一椀の米に窮したことはなかったろう。だが、なにひとつ己の思うようにできずに終ったはずである。
そんな母の一生は、こうしてときどき懐かしんでやるものがいなければ、あまりに哀れだと思えてならない。
虎之介が明信院に多大な感謝の念を持つのは、彼の位階や石高や江戸城中での扱いを父や兄よりはるか高みへ引き上げてもらったためではない。
ウスバカゲロウのようにはかなかった姪を忘れず、いまも命日には花を手向けてくれるその思いやりにあった。
国入りの祝いに兎の屏風をくれたのも、明信院だった。彼女の早すぎる死を悼むのは、いまや虎之介と院だけになった。
「殿、痛うございますか」
彼のもの悲しげな顔に気づいた原小平太が尋ねた。
「いや、そうではない。昔を思い出しただけだ」
虎之介は寝所で髪を梳ってもらっていた。
「殿は御髪が豊かでおられる」
すぐそばで難波忠次郎がいった。
「拙者は父の頭を見るにつけ、なんとも詫びしい心持ちになり申す。このところ生え際が下がった気がしてならず、目立たぬうちに丸めてしまおうかと悩みに悩んでおります」
すると原小平太が「さっさと出家しろ」と鼻をならした。
ふたりの息のあった様子に、虎之介は微笑んだ。歳の近い彼らといるのは、江戸を離れた寂しさをまぎらわせてくれる。
いや、違う。
虎之介は頭の中で首を振った。母を悼むのはたったふたりだけではない。
妻の真喜は、月命日に花をそなえてくれるだけでなく、ことあるたびに位牌や墓前に虎之介についての報告を行ってくれているようだった。このごろは、虎之介の求めに応じて、母に供えた花の絵を送ってくれる。
彼にとっての心残りは、藩主となった己の姿を母に見せられなかったことより、真喜を会わせられなかったことだ。
(もし二人が会っていたら、どんな話をしたのだろう)
と、考えた。母のしゃべる言葉を想像できるほど触れ合った記憶はないが、真喜についてはそうではない。
おそらく母は、
(驚いて、そのあと笑って喜んだのではないだろうかなあ)
自然と唇に笑みが浮かぶ。きっと気が合ったに違いない。
気分が良くなってつい、
「有島では、よくひとりで髪を結っていたな」と言うと、
「えっ」側にいた二人がそろって驚いた。目を丸くするとは、これだろう。
また、やってしまった。
彼が故郷で受けていた扱いは、どうやら御曹司の常識をはるか越えていたようである。
「いや、まあいい。忘れてくれ」
天気に恵まれた今日は、広い一室のうち特に柔らかに朝日の降り注ぐ一角を選んで、小平太と忠治郎の二人の床几役が髷を結ってくれている。
城主となった虎之介の主な身支度は、この二人と粥川又八、小西左馬助を合わせた御床几役の役目となっている。
四人はもともと小小姓で、虎之介の国入りに際して特に役目を得た。
床几役というのは、かつて将軍家から拝領した床几から生まれた国独自の役職だ。わかりやすく言えば昼夜なく藩主の最も近くに仕え、万が一には迷わず身代わりになるという立場である。
しばらく廃されていたのを、歳の若い虎之介が入城したのに合わせ四人編成で復活することになった。
他にも藩主の世話をする小小姓はいて、交代で役目についているが、床几役は常に二人、主君のそばに文字通り張り付いて手となり足となる。
使い終わった道具を丁寧に拭いていた忠治郎が、思いついたように言った。
「このところ、町ものの間で気味悪い話しがはやっておるようです」
「延寿寺のそばで一つ目が出た、というのは聞いたな。山深い寺なのに、このごろは物売りまで集まっていると郡奉行が申していた」
虎之介がそう口にすると、彼の髪を梳っていた小平太がすかさず言った。
「忠治向けの寺でございますな」
「いえ、あのような愛嬌のある話ではございませぬ」忠治郎は真剣な顔をした。
「それに、出るのではなく消えたそうです。人が」
「人さらいか、それとも夜逃げか」
「はは、殿は下々の事情にお詳しいが、違います。どうもこれは、神隠しというやつで。まるで江戸のような話にございます」
今朝の二人の組み合わせでは、万事きっちりした小平太が主に虎之介の身体に触れ、おしゃべりな忠治郎はもっぱら横で手伝いながら、いろいろな話を語って聞かせる。
彼は人当たりが良く適度に軽薄で、忙しい役目にありながらいつの間に仕入れるのか、あらゆる下らない噂に通じている。
虎之介が大笑いしたのをきっかけに、主君に聞かせるための四方山話をせっせと仕入れては披露するようになった。
すぐに身分をわきまえぬ口調になるので、時おり兵部に叱られているが、噂話そのものは、知友のいない藩主のせめてもの慰めとして黙認されていた。
「舟町に屋敷を持つ商人に、美濃屋孫兵衛と申すものがおりました」
忠治は古くからある商家の話をはじめた。
かつての美濃屋は、町名主もつとめたほどの回船業者ながら、ここ二十年ばかりは家運が衰える一方で、いまは衆に埋もれたぱっとしない店となっていた。
「歳は六十にはなりましょうか、ひと月ほど前のある日のこと、文ひとつ残さず、かき消すように姿が見えなくなりました」
美濃屋の商売の方はここ数年、息子が仕切るようになってかえって調子が良く、そのせいもあって大っぴらにせずこっそり人に探させていた。だが、
「近い縁者に不幸があり、それをきっかけに噂になったそうです」
「おぬし、坊主より目明かしが向いているのではないか」
小平太がぼそっと言って、忠次郎は無視した。
「ところが、伝え聞いた商人どもの中から、おなじように主の消えた話が出て、にわかに騒ぎになりました。それからは天狗だの見越入道のせいだのとみなてんでに好きなことを申しておりますが、捜査にこれといった進展はないそうです。百姓がまとまって失せれば役人は顔色を変えるが、あきんどの二人や三人が消えても知らぬ顔よと、みな諦め顔でいるとか」
自身が町方を批判したのに気付いたか、
「これはいけませぬな」と忠治郎は肩をすくめた。
「消えたのはみな同じ舟持ちか」
虎之介が聞くと、
「いえ、怪しいことに紅屋、足袋屋に経師屋と消えた者どものなりわいはみな異なります。ただ、歳に多少の差はあれ、どれも孫のいるほどの年寄りだそうです」
「ほほう」
「あ、それといずれも若い頃は、なかなかの遊び人だったとの声もございました。昔はつるんで高麗町によく通っていたようです。高麗町と申しますのは火事で廃れた色町にて、芝居小屋もあって面白かったと年寄りの話にたまに出て参ります。栄えたのはほんの短い間だったそうで、拙者は存じませぬが」
「どうせ、示し合わせて伊勢参りにでも行ったのではないのか。それで帰るのが嫌になった。息子の家族は冷たいし」と、あらかた仕事を終えた小平太があらためて口を挟んだ。
ともに二十歳前の二人がそろって分別臭い口ぶりで話すのが可笑しく、虎之介が微笑むと、
「いや、そんな旅に出るほど元気はあったかな」忠次郎は首をひねって腕を組んだ。
「うむ、似ているといえば、似ているな。どれも酒色より煎じ薬に親しいじいさまばかり、家の邪魔にならぬように身を隠したか」とつぶやいた。
「ここ一、二年のうちといったな」
虎之介の問いに、
「はっ、その通りでございます」忠次郎はそう言ってからつけ加えた。
「紅屋と足袋屋など、昨日まで店に出ていて、急に寝込んだと聞きました」
「ご先代もそうだったな」虎之介のつぶやきに、床几役二人の顔がこわばった。
先代藩主は、なんの前ぶれなく突如として立ち上がれない状態に陥った。
二、三日急に冷え込んだあとだったので、当初はそのせいかとも思われたが、結局はどの医者にも原因がわからなかった。
「これはうかつなことを」謝る床几役たちに、
「かまわぬ。それよりその話、気にかかる。万が一はやり病なら大変だ。町方に手間をとらせるつもりはないが、その神隠しについて詳しく聞いておいてくれないか」
虎之介には、義父と義兄の命を奪った奇病について、知りたい気持ちが強くあった。しかし江戸にいる多くの家臣たちは原因の解明をはやばやと諦めた。いまでは忘れたいとする気持ちが優っているようであり、先代藩主の話すらめったに出ない。
探究心の強い妻の真喜でさえ、父親の病に関して詳しく調べたいとの気持ちはないようだった。何年も直接口をきいていなかったという父娘の関係ではそんなものかもしれないが、虎之介は自らの運命を変えた奇病について、ずっと考え続けていた。
着替えを済ませ、書院に移ろうとしたところに、兵部の出仕が知らされた。
「もうよいのか。無理をしてはならん」虎之介が声をかけると、兵部は青白い顔で一日休んだことをわびた。
兵部は決して身体が丈夫ではなく、無理をするとよく熱を出した。今回は、舟で冷たい風にさらされたのが良くなかったのかもしれない。
重要な仕事がなければ早く帰るよう勧めた虎之介に兵部は、ゆるゆると首を振った。そして、元年寄の墨田が来ることになったと告げた。
墨田は前藩主の不興を被って以降、ずっと病と称し引きこもっていた。ただ、藩主一族の長老にあたる雪花斎老人の紹介によって、対面話が進展した。
「そうか、会えるか」
素直に喜んだ虎之介に、兵部は硬い表情のままだった。
聞くと、墨田は城への出頭を極端にいやがった。新しい藩主に会うのを厭うのではなく、むしろ是非あってお話したいことがある。しかし、登城はしたくないという。
久しぶりに接触した年寄衆には、自分の別邸まで虎之介を呼ぶことさえにおわせた。
さすがに強くたしなめられ、結局は城までは出てはくるが、庭園に設けた小屋を会場にすることに折り合いがついた。
「仮病が過ぎて、本物の頭の病にでもかかったのやも知れませぬ」
「ふむ」
城内にある庭園に設けた小屋は、藩主の私的な応接施設として過去、近隣の大名やその子弟などもっぱら賓客をもてなすのに使われていた。小屋といっても広く立派な座敷だってあるし、南蛮風の椅子まで置いてあって、虎之介は特に気に入っている。これは真喜の祖父の趣味だと聞かされた。
兵部は、ごねた墨田にも中途半端に折れた年寄たちにも腹を立て目の縁を赤くしていた。
彼は基本的に、墨田との面談は急ぐ必要はないという立場だった。雪花斎の声がけというのも唐突でくさいと思っているようだ。先日の放置された屋敷とは別のおねだりが裏にあるかもしれないと疑っている。
「私も先ほど、わずかな間ですが会って参りました。しかし話す態度もどこかふわふわとした軽い様子をして、これはもしかすると耄碌したのかとも思うほどでした。いえ、見た目は老け込んではおりませぬが」
「それなら、今回は理由をつけて会わない方が良いかもしれないな。せっかく説得してくれた船木には申し訳ないが」虎之介がそう言うと、
「いえ、それもまた……」
兵部は珍しく言い淀んでから、付け加えた。
「実はひとこと、気になることを申しました。それが事実なら、早めにお会いになってもよろしいかと」
「そうか。なんと申したのだ」
すると兵部は膝を進めた。理解した虎之介も身体を寄せ、一段低く落とした彼の声を聞いた。彼がこうするのは私人としての虎之介に判断させたい場合だった。
「天秀院さまの思い出話をお聞かせしたい、かしこまった書院ではなく、なるべく開けた心安い場所で、とのことでした」
天秀院とは虎之介の母に死後おくられた名だった。明信院との関係から生前、鵠山と少なくないやりとりがあったのは聞いている。
「たしかに彼の者は一時、江戸にいて御取次などを受けたまわっておりました。時期からは決しておかしくありませぬ」
兵部は、虎之介の母への想いを知っている。理非はどうあれ話を聞く機会を逃すべきではないと意見を変えたのだろう。
「分かった。会おう。それに、庭というのはむしろいいかもしれぬ」
虎之介は笑い、
「いや、あの場所をもっと気楽に使えないかと考えていた。隠居した者や百姓、商人らも、あそこなら肩に力を入れずにわたしと会えるのではないかと思う。その手はじめにどうだろうか」
「はっ」
「長島の隠居と会うのもいいな」
江戸留守居役を長くつとめた義父の名が主君の口から出て、兵部はすこし慌て顔をした。
墨田の顔をじっと見て、この男が前藩主に気に入られた理由は、姿がよく世辞がうまかったに違いないと、虎之介は確信した。
あとは人の急所をつかむことがうまい。その中身は別としても。
墨田は挨拶に続いて、
「この墨田、しばし胸がざわつき申した」と言った。母に似ているというのだった。顔形はともかく、背の高いのは母に似たのだと思っていた。小柄な父親が母に冷淡だったのも、それが理由と聞いたことがある。
髪が半ば白くなった墨田は、昔日の美男ぶりをうかがわせる目鼻立ちの通った顔をほころばせ、少々芝居がかかって話をした。前に聞いていたのとは雰囲気が違う気もしたが、虎之介は深く考えなかった。
「ありていに申せば、拙者が落ちぶれましたのは、角南と谷内、そして年寄の宇田川について、いや正しくはあれらにしがみついた連中を軽く見たからにございます。これについては口でご説明申し上げるよりと思い、お話をいただいてから早速書きつけました」と分厚い紙束を出した。
「即、焼いていただいて構いませぬ。書院では取り上げられる恐れがありましたので」と弁解した。
兵部をはじめ若い世代の臣たちがよく言うように、少し前までの人々は、むやみと書きつけとか建白書とか連判状が好きである。ただ、出したことで満足してしまい、多くは腰砕けに終わるのが鵠沼の旧世代にはありがちだ、というのも彼らから聞かされている。
先に名の上がった二人はすでに隠居していて、虎之介も顔を知らなかった。
墨田は改めて頭を畳に擦り付け、さっきの紙を虎之介に示してから言った。
「耳に挟みましたが、明信院様をお尋ねになる供連れで、またひともめあったとか」
「うむ。よく知っているな」
「恐れ入ります。それでまた声の大きい者がしきりに口を出し、家老どもは疲れた顔をして聞いているだけと。拙者のころと寸分変わらぬありさまのようです。それは」
墨田はいろいろ批判まじりに語ってくれたが、彼の遠回しな表現を直接的に翻訳すると、先代藩主がその治世の後半、目についた人材を深い考えなく取り立て、飽きると冷淡となるのを繰り返したのが齟齬のはじまりであり、その当時に蔓延した雰囲気がいまだに改まっていないとのことだった。
「どうすればいいのかな」
「そう、必要なのはまわりの大きな声に惑わされず、なにが大切かを見抜くこと」
そう言って墨田は膝を進めた。「金勘定に苦しみぬいた身から申しますれば、山賊に襲われるのを憂うより、少ない供連れでも浮いた手間、人、金を必要とするところに回す判断が肝要であり……」
黒めがちな彼の目を見ていると、だんだん、言うことはもっともだという気がしてきた。波打つような言葉を聞くうちに、身体がどこかへ持っていかれそうに感じる。
なんだろう、この不思議な感覚は。
そのうち墨田は人の推薦をはじめた。虎之介も知る二人ほどをあげてから、
「そういえば、膳所方の、なんと申しましたか、そう多聞。あれがよく気もつくうえに胆力もあるかと」という調子で進めたと思えば、虎之介が飽きるまえに転じて母の思い出を伝えた。
内気な母が案外、来客を喜んだという挿話を聞き、虎之介の胸は傷んだ。
別邸で静養している母が会いたいと伝えてきたのを、小さな虎之介はなにかに気を取られて断ったのだ。母はそのあと立ち上がる気力をなくして、結局床についたまま亡くなった。彼の一生忘れられそうもない後悔だった。
(母上……)
頭上のどこかで、微かだがするどい金属音がして、虎之介は我にかえった。
ふと目をあげると、墨田が首を傾げるようにしてこちらの顔を見ていた。彼が見ているより、彼の目を通して誰かが見ているようだった。
虎之介もその目を見返した。黒い瞳がだんだん虎之介の視野で広がりつつあった。虎之介は腰を伸ばし下腹にちからをこめた。
墨田は急に目をしばたかせた。明らかに狼狽えている。虎之介にも急に相手が小さくなったように思えてきた。
「も、もうしわけございません」さっきまでの多少上滑りだが快活な口調とは一転して、べちゃべちゃしたしゃべりになり、
「大丈夫か。なにかあったのか。急に具合の悪くなることは、よくあるぞ」
「いえ、なにも」
目を宙に漂わせてから、あわてて墨田はまた平伏した。
しかし、しばらくみじろぎしてから彼は、なにかに押されるように、また話しはじめた。面を合わせず、手だけで部屋の隅を指し、どこか棒読みに感じる言葉をしゃべった。
示した先には、国入りの祝いだと彼が持ってきた桐の箱があった。
「恐れながらこれを、お納めいただきたく」
中身は太刀であった。彼が生前の先代藩主から拝領したという。そして、明信院への挨拶にこれを腰に差して行ってくれれば、身の誉であるというようなことを繰り返した。もとは彼女の世話によって先代が手に入れた刀であり、さる名刀の写しで比較的新しい刀だが、出来はとても良いのだと説明した。
「まことに、まことに勝手なお願いながら、なにとぞお聞き届けいただきたく」
「そうか。わかった」
深い考えなしに虎之介が答えると、隅田はさらに平伏し言葉を継いだ。明信院の隠居所に向かう途中に、養生中の元部下である横江主膳の家がある。もし可能ならば、どうにか立ち寄ってはいただけないかと言い出した。
さすがに不審気な顔をした虎之介に墨田は、「いえ、なにも拙者やあやつの見栄や喜びのためではございませぬ。横江は私の下におりましたとき、江戸にいて明信院さまの文を天秀院さまに届けたこともあり」だから、彼だけが知る挿話もあるはずだと付け加えた。
経路は虎之介が決めるわけではないが、気になる話ではある。
「そうか、わかった。行列を取り仕切る谷口に伝えてみよう」虎之介はそう答えた。今度も、あまり深く考えずに。
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