第6話 夜の帝王と、異種の姉妹

 肉まんで腹ごしらえを済ませた俺たちは、服を買う前に、フードコートの近くにあった靴屋で靴を買うことにした。


 そこは、どこを見回しても、スニーカーや革靴が並ぶ、男物オンリーの靴屋。行きつけのショッピングモールとはいえ、愛梨もここには来たことはなかったようだ

 

 「男物の靴なんて、買ったことないわ。ショウはどれがいいかしら?」


 「俺が選んでいいのか?ファッションセンスはゼロに近いぞ?」


 「んー、それは少し心配だけど、ファッションのバランスは服である程度カバーが出来るから。それより靴は本人の足に合うものを選ばないと良くないわ。格闘家なら尚更そうじゃない?」


 「確かに、それじゃあ俺はこれを選ぶ」


 俺はきしめんのような靴紐の、星のマークがついた赤いスニーカーを選んだ。


 そして、俺がそれを手に取った時、愛梨は少し意外そうな顔をしたのだった。


 「なんというか……すごく真っ赤ね。ショウは赤が好きなのかしら」


 「別に好みの色じゃない。返り血が目立たなそう、と思っただけだ」


 「あっそ、じゃあそれにするわ。服を買いにいくから、ついてきなさい」


 そう言うと、愛梨は俺から靴を奪うと、そのまま会計を済ませて、足早に立ち去った。

 俺がどこに行くのかと聞くと、行きつけの服屋が別のフロアにあるからそこに行くとのことで、その服屋について詳しく聞いたところ、ファストファッションとかいう、生地とか色々安っぽいのに、種類は豊富な店だということが分かった。


 「懐かしいわね。と言っても、1週間前まではここに普通に来てたのよね」

 「新品の服が1000円しないのか。安いな」


 服に興味のない俺は、適当にそこら辺にあるアイテムを手に取る。

 その服はTシャツのような見た目でありながら、襟元からワイシャツの襟のようなものが飛び出ていた。


 「2枚かと思ったが1枚なのか。俺が言えたことじゃないけど、あまりセンスが良くないな。褒められるところと言ったら値段だけ。俺の事を安上がりと言った割には、愛梨も相当安上がりだな。いくら金を持っていても、昔からの好きな物や馴染みのものは変わらないようだ」


 「でも、服にこだわらないあなたには、ここで充分よ。試着室でこれとこれ、着てきなさい」


 俺は、足元と顔が隠せていない試着室に入り、愛梨から渡されたグレーのTシャツを着て、シンプルなデザインのジーパンを履く。


 「あ、忘れてた。これも」


 そういうと、愛梨は、さっき買った赤い靴と、どこからか取ってきたか分からない黒い靴下を投げ入れる。

 その靴下は男性用のフリーサイズで、ご丁寧に足先が、五本指に分かれているタイプだった。

 俺が試着室から出てきた時、愛梨は思い通りと言わんばかりの表情で口角を上げた。


 「デニムは、ショウの選んだ赤系の靴と、基本的に相性がいいわ。下がシンプルな分、上もシンプルにTシャツにしたけど、ヴァンパイア特有の白い肌にグレーは合うわね、サイズも完璧」


 ご満悦な様子の愛梨。

 だが俺はこのコーディネートで大丈夫なのか分からなかった。


 「ほんとにこれでいいのか?」


 「何か不満あるかしら?」


 「俺の姿が鏡に映らないから、似合ってるかどうか分からないんだ」


 そういうと、愛梨は試着室にある鏡を覗き込むが、鏡は俺達を映すことなく、誰もいない壁だけがそこに映り込んでいた。

 

 「そんなに不安なら私の瞳を見れば……って、よく考えてみれば、ショウは服に気を使わないタイプの人間だから気にする必要はないでしょ。なんというか、手がかかるわね」


 口ではめんどくそうにしているが、顔は少し綻んでいる。俺は思った。愛梨は、世話を焼くのが好きな根っからの姉さん気質なのだろうと。


 「そうか。それじゃあ戻ってサクラとのデートを……って今何時だ?」


 俺と愛梨はショッピングモールの吹き抜けで大きく飾られているアナログ時計を見る。


 その短針は10時と11時の中間をさしていた。


 「待ち合わせの時間まで30分だが……間に合うか」


 「そうね。ここで会計を済ませて、駐車場へ行く時間を考慮しても5分前には着くわ。警察と信号を何とかすればね」


 俺達は速攻で会計を済ませると、最短距離で駐車場へ向かう。そしてバイクに乗り、ヘルメットを被った時には、もう約束の時間10分前であった。


 「あと10分ね。私はあの子と鉢合わせする訳にはいかないから、手前で降ろすけど、何かしら遅れた時用の言い訳を考えるのよ!」


 そう言うと、激しくエンジンを噴かせ、信号の少ない路地を進む愛梨。

 俺は吹き飛ばれないよう、太陽の下で弱体化している己の腕に力を込めて、後ろから強く愛梨を抱きしめていた。


 快調に家に向かって飛ばす愛梨、すると、突然、ある産婦人科の病院の前で止まったのだった。

 

 「突然どうした?」


 「ここからは直線だから、バイクで行くとバレるの。時間的には走っていけば間に合うけど、女の子って何かと準備がいるし、少し遅めに行っても多分あの子は怒らないわ」


 そう言って愛梨は微笑むと、指でヘルメットを外すように指示する。俺が言われた通りにヘルメットを外すと、


 「それと、最後に一言だけ。ショウを後ろに乗せて、この街を走った時、妹を乗せてた頃を思い出したわ。それじゃあまたね」


 とだけ言って、俺からヘルメットを奪い、爆音を立ててエンジンを噴かせると、どこかへ行ってしまった。


 「可愛いなんて今まで言われたことなかったが……。意外と悪くないものだ」


 俺は彼女を見送った。そして、直線だと言っていたサクラの家へ向かおうとした時、病院の方から2人の女の視線を感じた。


 「えっ!ショウさん!?なんでここにいるの」


 1人は、美しく長い黒髪と、裾が膝下にある白いワンピースが優しく風に揺れ、ピンクの薄いチークと、唇に優しい色の紅が綺麗な少女。


 俺はその子がサクラだと認識するの、1・5秒ほどの時間がかかった。いい意味で、昨日との変わりように少し驚いたからだ。


 「道に迷って、偶然、ここに来た。中々その服似合ってるじゃないか」


 「そう?……ありがと。診察時間が押しちゃったから、絶対遅刻だと思ったんだけど、なんか……よかった」


 照れているのか、チークとは違う紅い色を頬に浮かべるサクラ。

 俺がその様子を静かに見てると、隣の、白衣に身を包み、茶色い髪の毛をポニーテールでまとめた初老の女が声を掛けてきた。


 「君がショウ君か。思ったより悪いヤツでは無さそうだ。初めまして、私はサクラの担当医の山沢葵。昨日は確かに暑かったが、今日の夜は冷えるぞ。筋肉を強調させる為にその薄着を選んだのだろうが、夕方頃には何か上に1枚羽織ると良い。」


 そういうと、彼女はほうれい線を強調させるかのごとく、口角を上げて微笑み、握手をしようと手を差し出す。


 「分かりました。気をつけます」


 思ってもないことを言って、無難に握手を交わす。その時、葵先生は俺の事を引っ張り、静かに抱きしめて、耳元で囁いた。


 「あの子は、人に迷惑をかけることを好まないから言わないと思うから、よく聞いて。もしこの子に何かあった時には、鞄の中にある錠剤を口の中に入れてあげて、あと無茶はまだダメよ」


 そう言うと、先生は俺の背中を軽く叩くと、ハグをやめて、小さくウインクした。


 「任せてください!それじゃあ葵先生。僕達はここで失礼します!」


 「先生!またも来週お願いします!」


 俺たちは先生に頭を下げると、そのままデートをすることにした。まあ、デートとは言っても、お互いそういう感情はなく、ただ一緒にいるというだけではあるが。

 

 「ありがとうな。今日は俺の為に、この街を案内してくれるんだろう。どこに連れて行ってくれるんだ?」


 俺が何気なく聞くと、サクラは感傷に浸る

 

 「お姉ちゃんとよく行った思い出の場所があるんだ。お姉ちゃんね、給料が入るといつもバイクの後ろに私を乗せて、ラーメンを食べさせてくれたの。私はいつもあっさり醤油だったんだけど、お姉ちゃんはニンニクマシマシラーメンが好きでね」


 ニンニクマシマシラーメン。聞いた事ある単語に俺は思わず口を開いた。


 

 「それってフドーナノカドー?この服さ、そこで買ったんだぜ」


 「えー!ショウさんが行ったことあるって、こんな偶然あるんだね。私さ、昨日会った時、この人、道着がボロボロだから、お金が無いのかなって思ってたの。そしたらなんか、普通の服を着てるから、ちょっとビックリしたよ」


 嬉しそうに小さく跳ねるサクラ。大きな胸が小刻みに揺れる。


 「俺もだ。昨日はダサいジャージだったが、今日はなんて言うか、可愛い女の子って感じで、驚いた」


 「ふっふーん。私、こう見えても、少しだけ、外見には自信があるんだ。昔は太ってたけど、今は努力して痩せたし!」


 嬉しそうに笑うサクラは、少し胸を張る。サクラはサクラなりに、自分の長所を分かっているようだ。


 「そうか。頑張ったんだな」


 俺は、ついつい彼女の頭を撫でる。生前、組織に攫われた義理の妹のことを思い出したからだ。


 「そ、そうだよー?て、天才のお姉ちゃんと違って、わ、私は努力の女だからね。そうだ!せっかくだし、ショウさんもお姉ちゃんのお墓参りに行く?さっき言ったフドーナノカドーの近くにあるんだけど」


 急に、真面目な面持ちになるサクラ。この時、俺の頭の中には、デートなどという、最初の邪な気持ちなど、とうの昔に消え、まるで、長年連れ添った妹と一緒にいるような感覚になっていた。


 「いいよ。行こう」


 つまり、可愛い妹の頼みなど断れるはずがなかったのだ

 


 


 

 

 

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死んだ格ゲー主人公なんだが、謎の美女助けちゃって、気づいたらヴァンパイアになってるんだが? @1-darkmoon

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