僕の中にある「不信感」
今の僕は既に大人だからそうでもないけれど、僕が子供の頃は大人を全く信頼していませんでした。
小学生の頃、万引事件が起きたんです。事件を起こしたのは、僕が一緒に遊んでいた年下の男の子たち。一つ下の子がふたり、二つ下の子がひとりでした。彼らと夏の暑い中、外で遊んでいたんです。
すると、ひとりが「涼みたい」と言いました。僕たちは涼める場所を探し、あるコンビニに入ったんです。お金が無いので何を買えるわけではありませんでしたが、商品棚を見ると何か買いたい気持ちにさせられてしまいます。自販機の下に小銭でも落ちていないか探して、見つからず、その日は帰りました。
翌日、またそのコンビニに行くと「涼みたい」と言った子が万引を提案しました。僕は「絶対にあかん」と言って止めましたが、僕以外の子は考えなしに10円ガムを一人一つ掴んで逃走したんです。確か、フィリップスガムだったかな。
僕は何も取らず、みんなの後を追いました。一瞬、店員さんに言おうか迷いましたが、結局僕は告げ口できずに店を出たんです。
後日、母に呼ばれコンビニに行きました。そこには僕以外のメンバーは誰もおらず、僕と母と店長と思しき男性と女性店員の姿があったんです。監視カメラの映像を見せられ、万引したねと言われます。
そうして、いくつか質問されました。
「前日も来ていたけど、下見?」
「涼むために入っただけです」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃありません」
「君が主犯?」
「いえ、僕はむしろ止めましたし、僕だけは何も盗っていません」
「嘘つくな。次嘘ついたら警察呼ぶからね」
覚えている範囲だと、こんな感じです。僕は全て本当のことを言っているのに、大人たちはそれを嘘だと言う。母も「嘘ついたらあかん」と、店員たちに同調しています。
本当のことを言えば信じてもらえないなら、嘘言えばいいや。もうどうでもいい。
そんなことを考えて、それからは店長の言うことに全て「はい」と答えました。ちなみに、全て嘘です。
程なくして、僕は母と一緒に全員に謝りに行かされました。僕は内心「どうして僕が謝らなければならないのか」と思っていましたが、仕方がありません。謝罪に行ったとき、相手の親に「二度とうちの子と関わるな」と言われました。子供の僕には、結構ショックです。
何よりもショックだったのは、誰も本当のことを言って僕をかばってくれないことでした。
また、万引冤罪事件の後も、似たようなことが起こったんですよ。
突然生徒指導室に呼び出され、行ってみると僕がよく遊んでいる友達が大集合していました。先生もいます。そしてもうひとり、よくいじめの対象になっていた年上の子もいたんです。今覚えば、知的障害か何かだったのかもしれません。知識のない小学生にとっては、格好の的でした。
だけど僕は「関わらない方が良さそうだなあ」と思って、避けていたんです。話しかけられたらそれなりに応じるけど、積極的にいじめに加担したことはありませんでした。
先生が言います。
「タイヤ遊びをしていたとき、タイヤを蹴られた」
「ここにいる全員が犯人だと、この子が言っている」
これには僕も驚きます。「お前らそんなことしとったんか」という驚きと、「僕も入ってるの?」という驚きです。とっさに僕は反論しましたが、被害者の語ることが全て鵜呑みにされてしまい、僕の話は先生には信じてもらえませんでした。友達が、僕のことを遠慮がちに見てくる……。
自分だけは違うと反論しても信じてもらえないし、友達を裏切るみたいになってしまう。これ以上何を言っても無駄かもしれない。というか、大人たちには本当のことを言っても何もわかってもらえないんだろう。
このときから、僕は大人たちには常に嘘をつくようになったんです。
もちろん、親にも。
親には特に、常に嘘をついてきました。親に対する態度も、言葉も、近況報告も嘘。高校一年の冬、東京の友人に会いに行くと嘘をついてネットで知り合った富山の彼女に会いに行った。高校二年で進路を変えたときも、本当の理由を言わなかった。大学に行けなくなったときも、大学を辞めるときも、何一つとして真実は話していません。
後から思い切って「あのときはこうだった」と話したけど、正直「今更信じて貰っても遅い」と思っていました。
完全に冷めきっています。
今でも、親に対する不信感は消えません。大多数の大人たちに対する不信感も、形を変えて残っているように思います。組織人を信用できないとか、警察を信用できないとか、そういう感じで。
小さな出来事も、人のその後を大きく左右するんですね。特に、子供の頃の出来事は人格形成に大きく関わるのかもしれません。だって、人格を形成しようとしている不安定な時期ですから。
僕には子供がいませんが、知り合いの子供などと関わるときは、その子の言うことを信じてやろうと思っています。少なくとも、真実かどうか見極めようとするくらいは、ね。
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