居酒屋で読む本

 一人で居酒屋に行くのが好き。最近は本当にお金がなくてなかなか行けないけど、余裕があるときはよく行ってた。


「一人で居酒屋に行って何するん?」


 よく聞かれるけど、そりゃあ酒飲むでしょ。一人でカウンターに座り、目の前に並んだ酒と肴をひたすらに楽しむ。静かに楽しむのもいいし、同じくカウンターに座っている一人客と会話をしたり店員さんと会話をしたりするのもいい。だけどそれは、カウンターしかないような店じゃないとなかなか難しい。


 僕はよく、居酒屋で本を読む。


 片手に本、片手に酒。たまに箸を持って肴をいただく。酔いで狭まった視野に、本の世界感がスーッと入り込んでくる。視野が狭まる分、より集中しやすく感情移入もしやすい。僕はじーっとしてるのが苦手だから、シラフで読むと気が散ってしょうがないんだ。だから酔いながら読む。幸い、酔っても記憶力などに影響があまりないから。


 作中に酒が出てくると、同じ銘柄が店にないか聞いたりする。置いていたときは最高だ。作中の人物が味わっている酒を同じように味わうという、4DXもびっくりするほどの臨場感を味わえる。


「家でもよかやん」


 確かにそうなんだけど、家だとPCがあるから動画を見たりしてしまう。もちろん動画を見ながら飲む酒もうまいんだけど、本が読みたいときはどうしても気が散る。目の前にPCがあるのに本を読む気にならなくて困る。読みたい気持ちはあるのにね。


 だから居酒屋で読む。


 店員や店主に読むな、と言われたら読まない。だけど一度も言われたことがない。長時間いるときは酒も肴もたくさん頼むようにしてるし、ちょっとだけ飲みたいときは早々に切り上げる。


 店に配慮しながら居酒屋で好きに飲み、好きに読む。そして好きに酔う。


 これが僕にとっての癒やしだった。

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