成人映画館に行ったときの話
以前、成人映画館に行ったことがある。京都に住んでいた頃の話だ。京都には成人映画館がある。後で知った話だけれど、どうやらゲイの方々のハッテン場として有名らしいんだ。ハッテン場というのはまあ、ナニをナニするところのことで……。
もちろん、僕にそのけは一切ない。
行くことになった経緯は覚えていないけど、「まあ人生経験増やそうかな」くらいの気持ちだったような気がする。
件の成人映画館は、普通に住宅街の中にあった。周りにはなんか高そうな家もあったなあと記憶している。住宅街を歩いていたら急になんか古めかしいエロいポスターを貼った建物が出てきたから、びっくりした。思わず「えぇ……」とか呟く。貼られているポスターは全て昭和臭がしたが、年代は不明。建物を見上げると赤文字で映画館の名前が書かれただけのシンプルな看板がある。
千本日活。ドドン!
自転車がたくさん停まっている。僕が入れずにいると30代くらいの男性が入っていった。高齢者ばかりだと思っていたけれど、意外と若い人もいるらしい。実際は8割高齢者なんだけどね。これも後で知った話だけど、いわゆる「老け専」の若いゲイが来ることがあるみたい。
中に入ると、銭湯の番台みたいに上から見下ろしてくる店員さんがいた。反対側には券売機。券売機で入場券を購入し、店員さんに半券を渡すシステムだった。入館料は600円だ。高いのか安いのかはわからないけど、貴重な体験ができるなら安いかな。
早速、シアターに向かう。上映中。3本立て。一度入れば見放題だ。立ち見席で「おおう」と若干引き気味になっていると、なぜかお尻を触られる。僕は実は見知らぬ男性が怖いので、そそくさとその人から離れた。よく耳を済ませると、周囲からなんか水音みたいな音が聞こえる。明らかに映画の音ではなかった。たぶんだけど、アレを口でアレしてる。
疲れたのでトイレに行くと、トイレからもなんかそういう声が聞こえてきた。
逃げ場がない。
一応ポルノ映画を見はしたが、正直全く集中できなかった。隣に来てジロジロ見てくる男に、後ろでシコッてる男……。僕にはハードルが高すぎる。なんだここは、地獄か? 魔境か? 無法地帯なのか?
一応人に話でも聞くか、とシアターから出て休憩している男性に声をかけた。
常連客らしかった。ゲイの人も多いけど、高齢者が癒やしを求めてくることも多いのだという。今はすぐにエロコンテンツが手に入るが、こうして足を使って通うのも乙だとかなんとか。あと、たまにオゾマシイ女装をした高齢男性がいるとか、まれに中年カップルが前の方の座席でセックスしていて、周囲の男の性処理をしたりするとか……。
何がなんだかわからなくなりそうだった。
なんちゅうところや……。
しかし、常連客には必要な場所なんだろうということは伝わってきた。昔はこのあたりも結構派手な街で、成人映画館はその名残だとか。今では健全な住宅街チックになったけど、そのときの残り香を感じたくて足を運んでいる人もいるのかもしれない。
ひとつ思うのは、彼らはこの映画館がハッテン場と化したことについて、どう感じているのだろう。嘆いている人も少なくはないんじゃなかろうか。別にゲイ物を流しているわけでもないのに、勝手にそういう場所にしてしまうのは悲しい。日本中にそういう場所がある。僕がよく行く梅田のスーパー銭湯兼カプセルホテルも、一部そういう場所として使われている。実際それで被害にあうノンケも少なくはないし、僕もその一人だ。
純粋に楽しみたい、浸りたい。
そんな気持ちを台無しにしてはいけない。
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