苦役列車

 映画『苦役列車』を見た。遅いと言われれば返す言葉もない。結構前の映画だ。原作は一度だけ読んだことがある。原作は二部構成で二部は主人公が作家としてデビューした後の話になっているが、映画は第一部を改変しながら映像化したものだった。


 主演・森山未來。


 僕は森山未來が好きだ。彼の演技力はとても言葉では言い表せないほどに恐ろしい。普段は温厚そうで人が良さそうな顔をしているのに、クズ男の演技をすればもうクズそのものにしか見えない。温厚そうな顔も卑屈で暗い顔になり、一歩道を踏み外せば犯罪者になりそうだと思うほどの怖い目をするようになる。


 そんな森山未來の代表作を挙げるなら、恐らく『モテキ』と『苦役列車』になるんだろう。どちらもベクトルが違うものの、ダメ人間役だ。苦役列車を見たが、ダメ人間度合いが段違いだった。


 苦役列車の主人公は、父親が性犯罪者。テレビで父親が犯罪者として紹介され、学校では後ろ指を刺され、家には石を投げ込まれる。転校を繰り返し中学卒業後は日雇い労働者。同情を誘う背景があるにしても、卑屈で暗くて他者へのあたりもキツく、それでいて自分自身に甘えている正真正銘のクズ男。


 家賃を何ヶ月も滞納し、家を追われることも一度や二度ではない。また新しく家賃の安い家を見つけてくるが、そこでもまた滞納をする。日雇労働先で出会った友人とも自身のクズさ故に疎遠になり、好きだった女とも疎遠になり、行きつけの本屋の店主に金の無心をし……。


 これは映画の内容だけど、原作はもっともっとジトーッとしている。湿地帯くらいジメジメしているし、どうしようもない。映画には「夢を諦めないこと」というようなメッセージ性を感じたが、原作にはそれを感じなかった。原作者は「メッセージ云々より読んだ人が自分よりダメな奴がいるんだなあと思ってくれれば」みたいな発言をしていた、と記憶している。まさにそんな感じの、どうしようもない私小説。


 それがたまらなく面白い。


 苦役列車の話を長々としてしまったが、僕はここでレビューをしたいわけじゃない。


 僕はただ、苦役列車という作品が微妙に身につまされたという話をしたいだけなんだ。僕はあそこまでクズではないと自分では思っているが、主人公に共通する部分が無いわけじゃない。


 友達に金の無心をしたことはないが、親にはしている。親に連絡するのは金の無心のときだけ。親に対する負い目と引け目と、昔の冤罪騒動のとき信じてくれなかったことに対する疑いが心のどこかにある。だからなにもないときは連絡もしないし、できない。金の無心も「払えないけど払わなかったら裁判沙汰」というようなときにしか、自分からはしない。


 それでもしていることに変わりはない。


 口では「嫌いだ」とか何とか言っても、結局頼ってしまっているのだ。クズそのものじゃないか。


 底辺フリーライター。先が見えない仕事と生活。貯金も無理。払えないことが多かったのに金が無いからと通販後払いサービスに頼ってしまう。そしてやっぱり延滞してしまう。債権譲渡になる前に払うことが多いけど、弁護士に債権譲渡されて弁護士事務所から連絡がきたことも二度くらいある。税金も滞納し、1年で除籍になった大学の奨学金返済に親が使っている僕名義の口座が、この前差し押さえられた。


 そろそろ色々な会社のブラックリストにのり、どこも後払いをさせてくれなくなるだろう。クレジットカードは既に作れなくなっている。


 夢があるか? 別に無いんだなこれが。苦役列車の主人公は「書いてみたい」という思いが日雇労働しているときもあったが、僕は別に夢と言えるものはない。小説を書きたい、とは思う。今も書いている作品があるけど、もうかなり長い間更新が止まっている。仕事仕事で、仕事が終われば勉強と酒の毎日。自分がこれからどうしていきたいのか、どうしていくべきなのかすらわからない。


 金もない。夢もない。学もない。権力もない。地位もない。ついでに彼女も2年くらい居ない。


 今の僕にあるものと言えば……。


 大切な友達と、推しくらいかな。


 友達に恵まれている分、僕はかなり良い方なのかもしれない。彼らはこんな僕を突き放すどころか、むしろ助けてくれる。態度はこれまでと何一つとして変わらない。金に困っていなかったときと同じように接してくれる。むしろクズさをあまり感じさせなかっただろう中学高校生時代よりも、仲良くなったような気がする。僕はそんな友達のことが大好きで大好きで仕方がない。


 仕事は苦しい。人生も苦しい。勉強しても身についた気がしないし、身につけたことを実践してもクライアントにダメだと言われる。人から褒められることは「声」くらいのものか。苦役列車。苦役という線路が長い間続いていく人生のように思えてくる。夜になると焦りと不安が押し寄せてきて、胸が痛くなって眠れない。


 だけど、終着点にはなにか希望めいたものがあると信じたい。


 ちっぽけでいい。些細でいい。灰色でもいい。


 そんな光が、この線路の先に待っていると信じて……。

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