28日目 死霊術家元

 死霊術の大御所を監修として迎えることになった。ポイタイン支社のプロスペロさんと、コタンがそのやり取りの担当者だ。プロスペロさんはコタンより一回りくらい年上のイケメンで、会議中でも社長に対してハキハキ受け答えしている印象があった。


「というわけで、コタンさん、今日からよろしくお願いします」

「はい、よっよろしくお願いします」


 コタンは人と話すのがそんなに得意ではない。どうしても緊張が態度に出てしまう。


「で、コタンさんにやってもらうのは、自分がいない日の家元とのやり取りなんですよ。これも簡単に済ませられると思うんで、そんなに心配する必要はないっすよ」

「そ、そうなんですか」


 プロスぺロさんはイメージよりもだいぶ砕けた口調で話す人だった。コタンの緊張はやや緩んだが、新しい業務を与えられたストレスが軽い頭痛を起こしていた。


「今回、家元と契約するのは全自動の魔機構システムを作るためじゃないんですよ。全自動を使った人たちのアフターケアというか、24時間相談できる魔機構システムを新たに作るんで、その内容についての監修をしてもらうためなんす」

「は、はあ……」


 よくわからなかったが、コタンは返事をした。手元はなんとかキーワードだけでも書き出そうと殴り書きでメモを取る。


「相談内容は大体決まってくるんで、あらかじめ回答を用意しとくんですよ。えーと、例えば『生き返らせた後に話は通じますか?』とか、『一度あの世を見た後に死生観が変わって戦意を喪失したりはしませんか?』のような。その解答例をいくつか社内で用意するんで、それを家元に校閲してもらうんです。わかります?」

「うっ、はい」


 わざわざ監修を雇うほどの事柄なのか。

 コタンは疑問に思ったが、口には出さなかった。


「で、その相談内容が想定で2000ほど、解答例が8000~10000くらいになるんすよ。その内容を、今回雇った死霊術師で、スキル的に足りない人たちに考えてもらうんで、その進捗と内容と、家元の校閲の進捗と内容を毎日記録して、社長に報告するのが実際の対応内容です」


 コタンの目の前がまた暗くなった。


「ちょ、ちょっと自分にできるかどうか……」

「わかります」


 プロスペロがかぶせるように言ってきた。


「最初はわかるように教えるんで、大丈夫っす。いや~しかし、最近毎日きついですよね~」


 コタンは驚いて水晶玉の中のプロスペロをみた。

 他支社の人間の口からそんなことを聞いたのは初めてだったのだ。

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