27日目 ダミー呪文書

「えっ、自分、呪文書を一から作ったことないんですが」

「うん、でも書写は何冊もしてるでしょ? だったら呪文書も1から書けるでしょってのが社長の見解なのよ。というか、そのくらいのレベルで社員には成長してほしいと言ってたよ。できる?」

「あの……その……」


 コタンの背筋が凍った。

 呪文書を書く?

 成長?


「いや、無理です。全然わからないので。魔機構システムって、まだ全然できてないんですよね?」

「うん、出来てない」


 コタンと同じ支社の上司であり、2級魔道師セカンド・ソーサラーのアムラトは冷静に答えたが、やや笑っているようにも見えた。


魔機構システムを作る会社とは契約したらしいよ。3社。でも、なにもないところから魔機構システムは作れないって言われたらしい。なので、ある程度まで、ダミー呪文書を我々で作るんだ」

「ダミーなんですか」

「そう、ある程度まで魔機構システムの内容を詰めておかないと、齟齬が生じるし、こちらが望むものは作れないって言われたらしい。だから、3日で本格的な魔機構システムの内容を詰めないと。それなら、いっそのこと呪文書をもう作っちゃえって社長指示が出たんだよね」


 アムラトは〈全自動〉ミーティングやほかの定例会議のほかに、役職者ミーティングにも参加している。通常の会議はほぼ社員のスケジュール報告とそれに対する社長の異議申し立てで終わってしまうため、具体的なプロジェクトの指示は役職者ミーティングで行われることが多かった。


「うーん、1から教えたいんだけど、ちょっとプロジェクトの進行的に無理なんだよね。提案書とマニュアルを参考に、すでにあるほかの呪文書で使えそうな部分を流用して作ってくれる? あとでチェックはちゃんとするらしいからさ」

「う……はい」


 コタンの胃が急に痛くなった。

 この魔機構システムは、本当に完成するのだろうか。

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