26日目 ダミー説明書

「えっ、呪文書のほかに説明書が必要なんですか」

「そうなんだよ。呪文書っていうのは魔法使いが読む専門書で、実際には魔法が使えない軍部の人が使うものだから、魔法が使えなくて、魔力を持ってない人も運用できるように説明書が必要なんだ」


 いまいちよく理解できなかったが、コタンには新たな仕事が与えられた。魔機構システムを実際に使用する際には、魔法の素養のない一般人、つまり将軍や隊長クラスの人間にも理解できるように説明書が必要なのだ。


「でも、提案書をもう作りましたよね」

「あれはあくまでも魔機構システムの紹介ね。これは実際に運用する際に見て使うものだから。完成品と同じものにしないといけないよ」


 アムラトは今日も無表情だった。ずる休みをしたコタンを責めるわけでもなく、淡々と業務の説明をしていく。


「もう魔機構システムは完成してるんですか?」

「いや、まだ。ザルトータンさんはほかの業務で忙しいから、魔機構システムの実際の仕組みは我々で考えるしかない」

「ええ……」

「大丈夫、それなりのものをまずはたたき台として作ったら、社長が責任をもってチェックするって言ってたから。入ってきた赤字修正指示に従えばいいんだよ」

「うう……」


 大丈夫っていってるけど、絶対に大丈夫じゃない。

 コタンはめまいを感じたが、何とか踏みとどまった。隣の席の新人の女写本師オペレーターナフェルタリが大きな目でこちらを見ている。


「わかりました。それで、私はどこを担当すればいいですか?」

「うん、じゃあ第3段階目の呪文の選択肢の一覧表ね。一覧自体は企画提案書にもう書かれてるから、実際の……」


 日々は過ぎていくが、こんな感じで魔機構システム完成するのだろうか。全貌が見えないだけに、コタンの不安は暗い霧のように心の中に広がっていった。

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