29日目 嘔吐

 あと5分で出社しなければ。

 突然、コタンは強烈な吐き気を催し、自宅の便所に駆け込んだ。


「オエっ、オオオオーーーー!」


 朝食のほとんどを戻してしまった。

 頭痛と胃痛がする。

 手拭いで口をきれいにしながら、めまいでコタンはふらふらと便所を出た。


 そうか、自分は会社に行きたくないのだ。

 そう実感すると、気分がさらに沈んでいくのを感じた。

 ふらふらと玄関にいったり、部屋の真ん中に戻ったりを繰り返す。


「どうするか……。今日も休む……?」


 声に出してみた。

 もちろんだれからも返事はないが、実際に声に出してみると、なぜだか一瞬で体中に汗が噴き出た。


 今日はプロスペロさんに教わった、家元との折衝や死霊術の原稿のチェック、それに先日依頼された呪文書の作成に納期が迫ってきている呪文書の書写業務、何より日々のスケジュール作成を行わなければならない。スケージュールはもちろん〈全自動〉プロジェクトの業務割合を計算に入れて構成する必要がある。


 新入社員のナフェルタリの大きな目を思い出すとやや気分が軽くなったような気がしたが、つづいてアムラトの無表情な顔、さわやかなプロスペロの笑顔、なにより日に焼けた社長の精悍な顔が心に浮かぶと、また吐き気が戻ってきた。


「でも行かないとな……」


 行ってみれば何とかなるだろう、一日席に座っていれば仕事は終わるのだ。少なくとも仕事の時間は。


 コタンは心を殺して会社に行ってみた。

 何とかならなかった。

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