33日目 ポイタイン支社のプロスペロさん

 ポイタイン支社のプロスペロさんはいい人だった。

 しょっちゅう「大丈夫ですか?」と聞いてきてくれるし、分からないことも機嫌よく教えてくれた。

 上司のアムラトに質問しに行くこともちょっとためらってしまうコタンにとって、遠慮なく相談できる相手ができたことはうれしい展開だった。

 相談はもちろん魔道具ツールの水晶玉を用いて行われた。プロスペロが教えてくれた〈本社にバレずに通信を行う方法〉を使って、コタンはプロスペロと仕事中に頻繁に連絡を取り合った。声を出して話すと支社内の他の人間に聞こえてしまうので、連絡は文章で行った。


『コタンさんも携帯型水晶玉モバイルギア買いましょうよ~。休みの日も連絡取れるし、話しながら酒を飲むのもいいですよ。コタンさんの支社はウチから遠いし、直接はなかなか会えませんからね』

『そうですね……。今日、お店によって見ていこうかな』

携帯型水晶玉モバイルギア買うと、一応会社に個別番号教えなきゃならないんですけど、まあ問題はないっすよ』


 プロスペロと水晶玉でやり取りしているのは楽しかったが、仕事の進み具合は格段に落ちたのが分かった。と同時に、あまり作業が進んでいなくても会議で怒られることはあまりないことが分かった。

 内容がなくても、しっかりとした受け答えをしていればとがめられることが少ない。これはプロジェクトの全体像を把握している人間が少ないことと、なるべく会議を穏便に済ませたい人間が多いことに起因するのではないかと、コタンなりに考えてみた。


 その日、コタンは水晶玉取り扱い店に赴き、一番安い水晶玉を買った。

 その水晶玉には無料の参加型絵巻物語があらかじめ導入されていたので、軽い気持ちでコタンはやってみた。妙な中毒性があるその絵巻物語を、コタンは夜半過ぎまで遊び続けるのだった。

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