34日目 早朝の連絡

『コタン君? コタン君? おはようございます! コタン君?』

『えっ?!』


 寝ぼけ眼でコタンは身を起こした。なんだ? 何が起こったんだ?

 枕元に置いていた携帯型水晶玉モバイルギアから、甲高い声が聞こえた。


『コタン君! 聞こえる? 聞こえたら返事して!』

『社長?! お、おはようございます?』

『おはおう! いやー悪いね、朝早くから!』


 携帯型水晶玉モバイルギアから聞こえていたのは社長の声だった。

 コタンの背筋が凍った。


『あの……』

『あのね、昨日作ってくれた書類あるじゃん? あれをね、ちょっと修正してほしいところがあるから、ちょっと聞いてくれる? いいかな? 今から言っていくからー』

『えっ?!』


 混乱する頭を必死に正気に保とうとしながら、コタンは部屋の中をかき回して紙と、小さな細い木炭を探しだした。


『1枚目のさ、タイトルが入ってるところなんだけどさ、ちょっと文字を大きくしてほしいのと、上の文字と下の文字の間隔が狭いような気がするのね。どう? どう思う?』

『は、はい、あの……』

『まあいいや。ちょっとイイ感じに調整しといてくれる? それと、』


 コタンは必死に修正指示を書きなぐった。しかし、肝心の原稿が手元にあるわけではないので、調子が狂う、どころではなく、暗闇の中をさまよっているような気分になった。

 同時に、高い崖の端を無理やり歩かされているような脅迫感にも襲われていた。見えない手に首を絞められているようだ。


『以上ね! 修正が終わったらさ、本社の秘書課の誰かに書写してもらって、社長室に届けてもらっていい? これ、朝一でお願いしますね。じゃあよろしくお願いしますー』


 通信は終わった。 

 時計を見ると、30分ほど話していたことが分かった。

 疲れ切った頭で、コタンは自体を整理しようと考えた。


 昨日、携帯型水晶玉モバイルギアを購入した時に、確かに会社に向けて識別番号を送った。

 しかし、次の日に即座に連絡が来るとは。

 しかも社長自ら。

 しかも、出勤前の朝の貴重な時間を割いてまで行わなければならない内容だっただろうか。

 しかも、指示の内容のおよそ5割は意味が分からなかった。


 コタンは放心したままベッドに座ったまま固まり、朝の貴重な時間をさらに無駄にした。

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