4日目 報告書

「今日からね、報告書の形式が変わるから、ルールに従って書類作って提出してね。上長とかが課員の業務の現況を把握することによって、業務の効率化につながるから。虚偽の記載はしないでね」


 上司のアムラトに資料を渡されたコタンはため息をついた。部屋のあちこちからも、「はあ?」とか「え~」などの不満のつぶやきが聞こえた。その意図を見透かしたようにアムラトは言葉をつづけた。


「報告書の記入と提出は業務の終了10分前から初めて、10分で終わらせてね。残業は許されてないから」


 その日の本社会議も3時間を超えた。コタンはまた今日も発表せずにすんだが、発表をスタートする支社は日替わりなので、そのうち自分が発表しなければならなくなることはわかっていた。

 発表のことを考える時が重かったが、ちょっとワクワクしている自分にも気づいた。


「報告書、ウザいですよね」

「しゃべった!」


 隣の席に座っている女写本師オペレーターのムリエラが話しかけてきたので、コタンは驚いて叫んでしまった。初日のあいさつ以外、数か月の間一言もムリエラとは口をきいたことがなかった。

 ムリエラはコタンの言葉を聞いて、何も言わずに自分の作業に戻った。


 コタンは用心して、就業の30分前から報告書の作成に入った。


 9:00~9:15 テクールトリ支社朝礼

 9:15~9:30 連絡帳・問い合わせ確認

 9:30~12:00 魔術書書写

 12:00~13:00 昼休憩


 報告書の作成は驚くほどつらかった。

 単純に自分の一日を思い出してなぞるのもつかれる作業であると同時に、自分の一日を本社に見張られているような気がしたし、常に疑われているような気もした。


 報告書を何とか完成させると、コタンをそれを水晶玉に読み込ませた後、上司のアムラトに報告書を提出したことを報告し、帰途につこうとした。


「あ、ちょっと待って。社長からチェックが入ってる」

「えっ?」


 報告書を提出してから5分もたっていなかった。


「もう帰っちゃったってことにするから、明日修正お願い。残業は禁止されているからね」

「はい。すいません……」


 すでに就業時間から1時間が経ってしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る