5日目 報告書追加
昨日提出した報告書が机に置いてあった。朱色の修正指示が社長から多々入っているもので、同じ支社に努めている事務のベレサさんが水晶玉から読み取って書写してくれたものだ。
「すいません、仕事増やして……」
「いいですよ、これも仕事なので」
とにかくこれを指示通りに修正して再提出すればいいだけだ。さっそく作業にかかろうと思ったコタンの目に思わぬ文字が飛び込んできた。
〈考えていない?〉
報告書の冒頭、「9:30~12:00 魔術書書写」と書いた箇所に、謎の赤字があった。そのほかの箇所には、〈何ページ目標で、何ページ達成したか記載すること〉〈気づいたことの欄には解決方法も記載すること〉〈疑問点は必ず上長などに相談し、相談の進捗を報告すること。誰に報告したかも記載すること〉などの、まだ理解できる修正指示が書かれていたが、〈考えていない?〉の赤字は意味不明だった。
コタンの背中にいやな汗が流れた。
「すいません、アムラトさん。これ、ちょっと意味が分からないんですけどどうしたらいいですか?」
「うーん、書名と進み具合が書いてないってことかなー。でも、何ページやったか書けって書いてあるしな。とりあえず書名と進み具合書いて。どうせ再提出したら読まずにOK出るから」
「ありがとうございます」
上司のアムラトに相談しに行くだけでもちょっと緊張するのに、社長と直接やり取りしているような感覚に陥って、コタンは軽く頭痛を覚えた。
これ、社員全員分の報告書を毎日チェックしてるのかな? そんな時間あるのか? 時間を止める魔法でも使っているのか?
「コタン君いる?!」
「はいっ!?」
突然水晶玉に社長の顔が現れた。
心臓を爆発させそうになりながら、慌てて魔道器を耳に当てる。
「おっお疲れ様です」
「はいお疲れ様です! 報告書どう? もう出した? 出したなら入れ違いでごめんなさいね!」
「い、いえ、すみません。まだです。これからです」
「まだ出してないの? 急かしてるわけじゃないからね! じゃあ15分以内に出してくれる? チェックするから! よろしく頼みますね!」
社長は一見、普通の人間の商人のように見える。社内では実は魔族で、人間に化けて金儲けをしているのだといううわさもあったが、外見だけで言えば精悍な中年男性に見えた。
社長から直接通話を受け、コタンは手のひらに汗をかいていた。15分以内に報告書を完成させなければ。胃のあたりが冷たくなるのも感じた。
コタンはその日、3回報告書を提出し、3回修正指示を受けて、3回修正した。
修正指示を受けるたびに事務のベレサさんが修正指示の入った報告書を書写してくれた。コタンだけではなく、ほかの支社の社員も何名か修正指示を受けていた。
「すいません、仕事増やして……」
「いいですよ、これも仕事なので……」
その日はろくに実作業ができなかった。
その日の報告書には仕事をやった体で業務内容を記載した。明日頑張って、今日の分の業務をこなせばいい。
帰ろうとしたコタンに上司のアムラトが声をかけた。
「あ、明日からコタン君も全自動のミーティング参加してね。プロジェクト要員になったから」
「はい?」
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