3日目 時間軸

「今日は意識変性鳥類の呪文書、別冊2の4ページ目から写本作業を開始しております。今日中に14ページまで進む予定です。明日は……」

「時間は?」


 今日も会議だ。

 《黒河の北県》支社の社員である呪文書作成士デザイナーバルトゥスが発表すると、社長の声が飛んだ。水晶玉越しにでも、バルトゥスの緊張が伝わってくる。


「はい、時間は……10ページ、5時間業務を予定しております。作成後は……」

「時間軸で!」


 会議内の空気が凍る。


「はい……」

「時間軸で発表してくれる? 何時から何時まではこの作業、その次はこの作業って。一度で相手に伝わる言い方をしないと意味がないでしょ? もっと思いやりを持って発表してくれないと、時間もかかるし、みんなに迷惑が掛かってるから!」


 社長の怒鳴り声が響いた。本社は広い洞窟の中を切り開いた大広間なので、声は反響して大きく響く。

 バルトゥスの発表はそのあと、社長が納得するまで何回も繰り返された。

 バルトゥスの顔が青くなっていくのが水晶玉越しにもはっきり見えた。


 会議は今日も3時間を超えて続き、コタンはまた発表せずに済んだ。


「全員の発表が終わった会議ってあったんですか?」

「前は10人くらいしかいない時もあったから、その時は終わったよ」


 手慣れた手つきで写本作業を進めながら、灰色ローブのアムラトは答えた。

 手元に用意した会議用のメモを机の中にしまいながら、コタンはなぜ以前10人だった会議に今は100人以上参加しているのだろうと考えた。

 今日の写本作業は4ページ進んだので、進んでいないページは合計7ページになっていた。

 明日も発表しなくて済むといいなと、コタンは考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る