第12話

 私は国王の提案を無視しました。

 無言で殺気のこもった視線を国王に向けました。

 国王は震えて何も言えなくなったようです。

 嫌な臭いが漂ってきました。

 国王ともあろうものが、情けなくも女に睨まれただけで、失禁脱糞したのです。


 翌日から約束が次々と実行されました。

 権利や領地を奪われた遠征中の貴族士族の家に、権利と領地が返されました。

 四の五の言う王族もいましたが、そんな王弟の一人を叩き殺してやりました。

 それから直ぐに四の五の言っていた王族も権利と領地を返してきましたが、私は許しませんでした。


 人を捨てた以上、遠慮などいりません。

 国王が約束したことを守ろうとしなかったのです。

 今更慌てて実行したところで許す気にはなりません。

 もしかしたら、国王に命じられて私が譲る可能性を探っているのかもしれません。

 ですが、だからこそ、一歩も譲りません。

 ここで譲ったら、父上たちに対する態度が悪くなると感じたからです。

 一日異国からの撤退が遅れれば、誰かが死傷するのです。

 その誰かが父上になる可能性もあるのです!


 人の枷を外した私は、圧倒的な力があります。

 心も人から大きく外れてしまっています。

 私が優しくなれるのは、父上や母上といった家族と、いつも忠義の心で仕えてくれていた家臣領民、そして命を捨てて助けようとしてくれたアウロラだけです。


「ヴァルナ様、今日はどこに行かれるのですか?」


「そうですね。

 今日はクーパー子爵のところに参りましょう。

 クーパー子爵は遠征に参加していておられますから、私達の事を襲うこともないでしょう」


「はい、私もそう思います。

 ですが身嗜みを整えてもらったら、直ぐこちらに戻りたいです。

 よその家の者と一緒に堅苦しく食事をするよりも、ヴァルナ様と二人で食事をする方が楽しいです」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 本当にうれしいです。

 私の御陰で助かった貴族も、私が叩きのめした貴族も、みんな私に化け物を見るような視線を向けます。

 仕方のないことだと分かっています。

 それを覚悟して、死を選ばずに戦ったのです。

 ですが、それでも、心は痛みます。

 ジクジクズキズキと痛むのです。


 だからこそ、アウロラの言葉が痛いほどうれしい。

 本当はこのままずっとアウロラと一緒に暮らしたい。

 そう本気で思います。

 私だけの幸せを考えれば、アウロラと二人どこかに逃げてしまえばいいのです。

 どこに行こうと暮らしていく自信があります。

 誰が前を遮ろうと、叩き殺して打ち破る自信があります。

 ですがそれでは、アウロラが伯爵令嬢としての幸せを失うことになります。

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