第7話

 私は少し焦りました。

 自分の言ったことを確実に実行するためには、王城に乗り込んで王太子もぶちのめさないといけません。

 ですがアウロラを寛がせることも大切です。

 いえ、その方が王太子をぶちのめすよりはるかに大切です。


「ヴァルナ様、アウロラ様。

 食事は必要ありませんか?」


 コヴェントリー侯爵家のメイドが話しかけてきます。

 笑顔を浮かべていますが、私は騙されません。

 笑顔の下に残虐な本性が透けて見えます。

 服装から考えて、ハウスキーパーかレディースメイドでしょう。

 コヴェントリー侯爵家で、コヴェントリー侯爵やダニエラの下にいて、使用人の中で高い地位を得ているのです。

 性格が善良なはずがありません。


「私達に食事を用意してくれるの?

 それは助かるわね。

 私とアウロラは王城に行ってくるから、その間に用意しておいて」


「承りました」


 メイドの言葉で決断ができました。

 わざと隙を作ってメイドの悪事を暴いてあげましょう。

 きっと善良な年若いメイドを虐めていたことでしょう。

 ですが想像だけで、攻撃してこない女を傷つけるわけにはいきません。

 そんなことをすれば、アウロラに嫌われてしまいます。

 アウロラが納得する状況を創り出して、叩きのめす必要があります。


「アウロラ、一緒に行きましょう」


 私は屋根裏部屋まで行ってから、屋根裏部屋の窓から跳んで王城に向かいました。

 王都の貴族屋敷の屋根を足場にして跳んで移動しました。

 三重の水濠と城壁をやすやすと跳び越え、本城の屋根に跳び移り、鎧戸を破壊して中に入りました。

 コヴェントリー侯爵の王都屋敷の時と同じように、出会った使用人を脅して王太子の居場所を聞き出しましたが、私を恐れて居場所を教えたというよりは、王太子が私びぶちのめされるのを期待して、進んで教えているような気配でした。


「王太子殿下、約束通り参上したしました」


「ヒィィィィイ!

 くるな、来るな、来ないでくれぇぇぇぇ!

 あやまる、謝る、謝るから許してくれっぇぇぇえぇ!」


 昨日の報復がよほどこたえたのでしょう。

 泣き叫んで謝ってきましたが、許す気は毛頭ありません。

 塵屑の戯言がアウロラの耳を汚さないように、部屋に押し入る時から眼をつぶり耳を塞いでもらっています。

 ですから情けない泣き言はアウロラの耳には届いていないはずです。


「ウギャァァアァァァア!

 いたい、痛い、痛いよぉぉぉぉ!」


 コヴェントリー侯爵やダニエラと同じように、左の膝を握り潰してあげました。

 それにしても情けないことです。

 王太子ともあろうものが、またしても失禁脱糞してしまっています。

 これからは失禁王太子、脱糞王太子と名乗るべきですね。

 さあ、少しドレスや下着を物色してから帰りましょう。


 

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