最終話 島の英雄

――ガロウが破れ、イレイナが敗北した事によって獣人兵は降伏を余儀なくされ、彼等は武器と防具を取り上げられると、とりあえずの間は彼等が乗っていた飛行船に隔離された。


イレイナが操らなければ飛行船が動く事はなく、魔大砲などの兵器は没収され、彼等を乗せた船は島の中央の湖に浮かぶ。逃げようと思えば逃げられるが、魔物が巣食うこの島で武器も無しに生き残る事は不可能、しかも島の周囲は岩山に取り囲まれ、外海への脱出はほぼ不可能だった。


仮に海に出れたとしても船がなければどうしようもなく、しかも島の近くには大渦が存在する。そのため、船を作っても大渦に飲み込まれる可能性が高く、そもそも大陸まで移動するのに大船でも数日の時は要する。


獣人兵は自分達が敗北した事で意気消沈し、もう反抗する気力も残っていなかった。明日にでもエルフの戦士達に殺されるのではないかという恐怖に襲われ、中には自殺を計ろうとした者もいた。


彼等の取り扱いに関しては話し合いが行う必要があるが、その前にレナ達は島で回収した全ての勇者の装備を祭壇に収めるために王都へ帰還する事にした――





「――よし、これで全ての勇者の装備は揃ったな」

「盾に鎧に兜……これを祭壇に収めれば島中の転移台を自由に起動できるようになるんですよね」

「ああ、その通りだ。これでいつでもこの島には自由に行き来できる。転移石を使う必要もなくなるだろう」

「へえっ、それはいいな!!それじゃあ、転移台を起動したら今度は皆で冒険しようぜ!!」

「コネコちゃん、ここは大迷宮じゃないんだよ。でも、確かに勇者様が残した島と聞くと気になるけど……」

「こいつを使えば俺達も北山からすぐに他の場所へ移動できるんだよな?」

「ああ、そこは問題ないはずだ。大迷宮の転移台は魔物は使用できないが、この転移台は利用できるはずだ。実際に食用の魔物を勇者が運び込んでここで飼育を行っていたという記録も残っているからね」

「マジかよ!!じゃあ、俺達の先祖の中は食用として連れてこられた奴もいるかもしれねえな!!がっはっはっはっ!!」

「そ、それは笑っていい事なのでしょうか……?」



転移台の傍には勇者の装備を全て集めたレナ達が集まり、王都へ戻って地下に存在する祭壇に剣以外の勇者の装備を治めれば島に存在する転移台は完全に起動し、島内に存在する全ての転移台を利用し、自由に王都や他の転移台に移動できるはずだった。


王都へ帰還するためには転移石を使用する必要があるが、完全に転移台を起動させれば転移石を使う必要もなくなるらしく、すぐにレノ達は王都へ戻り、国王に報告を行ってから勇者の装備を祭壇に捧げる予定だった。この島を救ってくれた救世主たちの見送りのために大勢のエルフが集まり、西里と南里の族長のアルフとライクは最後にレナと握手を行う。



「勇者様、この度は我が島をお救い頂き、誠にありがとうございます」

「貴方様の活躍は子孫に語り継がせる事を誓います」

「いや、そこまでしなくてもいいですよ。それに俺だけの力でこの島を救ったわけじゃないんですから……」

「別にいいじゃないか、この島を救った3人目の勇者として祭り上げられるのも悪くないんじゃないかい?」

「もう、団長は他人事だからって……」



ルイの言葉にレナは困った表情を浮かべるが、島のエルフからすれば自分達を救ってくれたレナは恩人であり、そして今回の争いで大切な物を失った人々の希望でもあった。


獣人兵との戦で大勢のエルフが死亡し、その中には家族を失った者もいた。そんな彼等の心の傷を癒すには生きる希望が必要だと判断し、族長はその希望こそが勇者の子孫であるレナだと悟る。


実際に獣人兵の一件がなくてもレナ達のお陰で各里が荒そう切っ掛けとなった牙竜は討伐され、島に平和が戻った。これだけでも十分にレナはエルフ達を救い、更に獣人兵という脅威と戦うために島中のエルフは一致団結する。


各里のエルフ達は争う事は止め、これからは共に生きていく事を誓う。辛い事や悲しい事はあったが、それでも島中のエルフが集い、これからは協力し合って生きていける環境をレナ達は用意してくれた。それだけでエルフ達にとっては一生をかけても返しきれない恩だった。



「勇者様も皆様もいつでもお越しください……もしも我々の力が必要な時はいつでもおっしゃってください、今度こそお役に立ちましょう」

「おう、その時は俺達も協力してやるぜ!!」

「ギギィッ!!」

「あははっ……ありがとう」



エルフだけではなく、魔人のミノやゴブリン達ともレナは握手を交わす。昔のレナならばゴブリンの姿を見ただけで嫌悪したが、戦いを通して北里に暮らすゴブリン達とは心を通わせる。


全員が別れの言葉を告げ、遂にレナ達は転移台へと乗り込む。この時にレナは一緒に連れて帰る事にしたイレイナに視線を向けた。彼女はミスリル製の手錠と足枷を取りつけられて拘束しているが、その気になれば彼女の力なら逃げ切れるだろう。


しかし、イレイナは逃げる事はせず、もう何もかもを諦めた表情を浮かべていた。自分の心の支えにしていた魔法の力を他人に破られて以来、彼女は心が折れてしまった。そんなイレイナを見てレナは彼女を見捨てる事は出来なかった。



(イレイナはもしかしたら俺の……いや、どうでもいいか)



仮にイレイナがレナの「姉」か「妹」だとしても、レナにとては関係ない話であった。レナにとっての家族は義両親であるカイとミレイ、そしてダリルやコネコ、それにミナ、シノ、デブリ、ナオ、ドリスはもう彼にとって家族のような存在だった。


この島を守る事は出来たが、全ての問題は解決したわけではない。獣人国から奥込まれた本隊の件もまだ残っているが、それでもレナ達は一旦は国に戻る。これから先の事は国同士の問題であり、もうレナ達の手に負える事ではない。



「帰ろう、皆……俺達の国へ」



レナの言葉に皆は頷き、転移台が光り輝くと、全員の身体が光の柱に飲み込まれた――







※これにて魔拳士は一旦完結です。続きを書こうと思えば書けるかもしれませんが、とりあえずはここまでで終わらせます。

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