第821話 付与魔法の真価
自分の退魔剣が空中に砕け散る光景を見たイレイナは唖然とした表情を浮かべ、目の前で何が起きたのか理解できなかった。どうして自分の剣が砕けたのか、そして何故目の前に立っているレナが攻撃を止めたのか分からなかった。
レナの闘拳はイレイナの眼前に止まり、あと少しでも踏み込めば顔に衝突する。しかし、呆然と立っているイレイナに対してレナは黙って拳を下ろす。
「俺の勝ちだ、イレイナ」
「そん、なっ……」
自分の誇りといっても過言ではない退魔剣を破壊されたイレイナは膝をつくと、折れた剣を落とす。彼女は自分の剣が破壊されたのに対し、レナが装備している闘拳には傷一つない事に戸惑う。
「お、お前の武器……お前の武器は、何なんだ……有り得ない、アダマンタイトで構築されたこの剣が壊れるなんて……有り得るはずがない!!」
「武器のせいじゃない、剣が折れたのは……君が付与魔法を使いこなしていなかったからだよ」
「な、何だと!?私が、この力を使いこなしていないだと!?」
イレイナはレナの言葉を聞いて信じられない表情を浮かべ、彼女は今日に至るまで何十回、何百回、何千回、何万回も付与魔法を使用し続けた。毎日に何度も付与魔法を酷使し、時には魔力を使い果たして倒れる事もあった。
そんな自分が付与魔法を扱いこなせないなど信じられるはずがなく、彼女は言い返そうとした。しかし、言葉は口に出来ず、頭ではもう理解していた。自分よりもレナの方が付与魔法を使いこなせた。そうでなければ退魔剣が折れるはずがない。
「君の魔力は凄い、もしかしたら俺よりも上かもしれない……だけど、君は魔力を武器に込める時に無駄に魔力を使っている」
「な、なんだと……!?」
「君が付与魔法を剣に付与した時、魔力が溢れ出していた。確かに凄い魔力だったけど、逆に言えば魔力が溢れるという事は剣に付与した魔力が零れ落ちているだけに過ぎない。だから俺には勝てなかった」
「そんな……!?」
レナは自分の闘拳を見せつけると、最初はイレイナはレナの言葉の意味が分からなかった。しかし、レナの闘拳を覗いていると闘拳から一切の魔力が溢れていない事に気付き、その代わりに闘拳全体の色合いが紅色に変色している事に気付く。
「まさか……武器に魔力を抑え込めているのか?」
「俺達の国では「極化」と呼ばれる現象だよ。魔力を武器に封じ込めると余計な魔力は一切漏れない、その代わりに武器に変化が訪れる……俺の闘拳は元々は赤色だったから、気づかなかったでしょ?」
「極化……」
イレイナはレナの言葉を聞いて呆然と折れた剣を見つめ、今まで幾度も付与魔法を使用し続てきた。しかし、彼女は武器に魔力を送り込めば送り込むほどに勝手に強化されると思い込んでいた。だから魔力を武器から溢れさせずに内側に収めるなど考えもしなかった。
自分と同じ付与魔法の使い手で恐らく自分よりも魔力を持つイレイナに対し、心の何処かでレナは恐れを抱いていた。しかし、彼女との戦闘を振り返り、イレイナの武器は常に魔力を迸らせた事に気付いたレナはイレイナが付与魔法の真に使いこなせていない事を知る。
魔力の保有量は劣るとしても、自分の方が付与魔法を使いこなしていると確信したレナはイレイナに対する恐怖と劣等感を打ち消し、相手にはない長所で挑む。そして見事に勝利を掴んだ。そして自分と同じ付与魔法の使い手に敗北したイレイナは心が折れてしまう。
「決着だ……これ以上、続ける必要はない」
「……好きにしろ」
イレイナはレナの言葉に力なく座り込み、今まで心の支えにしていた「力」が打ち破られた事により、気力を失ってしまう。そんな彼女の姿を見た獣人兵達も抵抗を辞め、その場で武器を捨てた――
――こうしてレナ達は島に乗り込んだ獣人兵との戦闘に勝利を果たした。
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