第819話 勇者の鎧

「あ、あれは……馬鹿な、何故ここに!?」

「まさか……勇者の鎧、か!?」

「勇者の鎧?何だそれ!?」



イレイナが身に付けている鎧を見てライクもアルフも激しく狼狽し、その様子を見たコネコは尋ねると、彼等は震えながらも答えてくれた。



「儂も見るのは初めてだが、各里で管理している勇者の装備の中には漆黒の鎧だと聞いた事がある。その鎧を身に付けられる者は真の勇者だけと聞いておるが……」

「な、何故……勇者の鎧をあの者が身に付けているのだ?」

「……あの色合い、まさかアダマンタイト製?」



シノはイレイナが装備している漆黒の鎧を観察し、その色合いからレナの装備の素材にも扱われている世界最硬の魔法金属と呼ばれるアダマンタイトではないかと推察する。


東里で保管されていた勇者の鎧を身に付けたイレイナはレナと向かい合うと、漆黒の剣を取り出す。それを確認したレナはすぐに飛来拳で飛ばした「紅竜」を引き寄せると、右腕に装着しなおす。そんな彼に対してイレイナはレナが左腕に装着した盾を見て気付く。



「お前が身に付けている盾……勇者の盾だな」

「……ああ、そうだよ」



レナは勇者の盾を装備していると知ると、イレイナは気を引き締め直すように剣を構える。レナは勇者の盾を祭壇に捧げず、持ち込んだ理由は彼女のとの戦闘で必要になると判断したからであり、左腕の籠手が破壊された以上は代わりの防具は勇者の盾しかなかった。


イレイナは漆黒の闘拳に付与魔法を発動させると、レナも負けずに自分の闘拳に付与魔法を発動させる。二人は向かい合うと周囲の者達は雰囲気だけで圧倒され、迂闊に近づけなかった。互いに勇者の装備を身に付けた者同士、どんな戦闘が繰り広げられぅのか想像できず、迂闊に助太刀も出来ない。



「はぁあああっ!!」

「うおおおおっ!!」



二人は同時に踏み込むと、足の裏から重力の衝撃波を発生させ、一瞬にして距離を詰める。互いに同じ魔法の使い手同士、戦法も似るのは当たり前の話だった。



四重強化クワトロ!!」

「重撃剣!!」



互いに武器に付与魔法を重ね掛けした状態で繰り出し、お互いに打ち込む。イレイナはレナの身に付けた盾に剣を振り抜き、一方でレナはイレイナの身に付けた鎧の腹部へと叩き込む。


その結果、お互いの盾と鎧に攻撃が届いた瞬間、二人が身に付けた装備品は紅色の光を放つとお互いの攻撃を弾き返す。レナの場合は後ろに仰け反り、イレイナの場合は数メートルほど吹き飛ぶ。



「ぐっ!?」

「うわっ!?」



どうやら勇者の鎧もレナが身に付けている盾と同様に敵からの攻撃を受けると自動的に装着者の魔力を吸い上げ、防御する事が判明した。但し、盾と比べれば面積が広いせいか相手の攻撃を弾き返す事は出来ず、盾と比べたら応用性は低い。


しかし、全体がアダマンタイトで構成されているので防御力という点では最強を誇り、現にレナの一撃を受けてもイレイナは全く影響を受けておらず、続けて彼に攻撃を繰り繰り出す。



「このぉっ!!」

「くっ!?」



跳躍して上段から剣を振り下ろしてきたイレイナに対し、咄嗟にレナは左腕の盾を構えて防ぐ事に成功するが、イレイナは弾かれた際の反動を利用して上空へと移動すると、空中で停止する。その光景を見てコネコは驚きの声を上げる。



「と、飛んだ!?」

「まさか、鎧に魔力を付与させて飛んでいますの!?」

「本当にレナと同じ魔法が使えるのか!?」



付与魔法の応用で鎧の重力を操作し、浮上したイレイナは剣を構えると、地上へ向けて一気に降下する。それを見たレナは咄嗟に身構えるが、彼女が降りる場所はレナの元ではなく、破壊された戦車の上であった。



「ふんっ!!」

「何を……!?」



砲台が破壊されて使い物にならなくなった戦車に降り立つと、イレイナは戦車に手を触れて付与魔法を発動させた。その光景を見てレナはイレイナの考えを見抜くと、慌ててレナは周囲を見渡す。



「潰れろ!!」

「なっ!?」

「嘘だろ、おい!?」

「レナ君、危ない!!」



戦車を付与魔法の力で浮上させると、レナの元に目掛けて放つ。その光景を見た者達はレナに逃げるように促すが、迫りくる戦車に対してレナは掌を地面に押し当てると自分の足元の土砂を操作して大穴を作り出す。


結果から言えば大穴の中に身を隠したレナは戦車を回避する事に成功し、吹き飛んだ戦車は既に倒壊した建物へと突っ込む。自分の攻撃を回避した事にイレイナは苛立つが、一方でレナの方もやりにくい相手だと考える。


自分が出来る事は相手も出来るとという事実に二人はお互いの戦法を読み、即座に対処出来た。だからこそ、相手に勝つために敵の意表を突く攻撃法を先に仕掛けるしかない。レナは自分の魔銃に視線を向け、使うべきかどうか悩む。



(鎧に守られていない部分、頭を狙えばイレイナを倒す事はできる……けど、俺にできるのか?)



魔銃を使用すればイレイナを倒せる可能性は十分にあったが、レナは身体を震わせる。魔銃を使えば高確率でイレイナを死なせてしまう、そう考えるとレナは魔銃を使う事に踏み切れない。

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