第818話 最終局面
「……はっ?何だ、これ……壊れた?」
ガロウは自分が手にした神器が砕けた事に理解が追いつかず、伝説の勇者の武器が破壊されたという事実を受け入れられなかった。しかし、現実に神器アックスはレナの手によって破壊された事に変わりはない。
レナが身に付けている闘拳は伝説の武器にも劣らぬほどの強度を誇り、更には地属性の付与魔法によって限界まで強化された代物である。武器としての価値は神器にも勝るとも劣らず、レナは呆然とするガロウに向けて掌を構えた。
「この島でお前等に殺された人たちの痛みを……少しは味わえっ!!」
「ぐはぁああああっ!?」
掌から直接放たれた重力の衝撃波によってガロウの身体は吹き飛び、その際に神器は手放される。その光景を見ていた獣人兵はガロウが倒されたという事実に呆気に取られ、そんな彼等にルイは宣言した。
「お前達の大将は倒れた!!それでも、まだ僕達と戦うつもりか!?」
『…………』
獣人兵はルイの言葉に互いに顔を見合わせ、どうするべきか分からずに立ち止まる。そんな彼等に対してレナは視線を向けると、兵士達は怯えた表情を浮かべて武器を落とす。
「ガロウ将軍が負けた……」
「俺達に勝ち目はないのか……」
「も、もう止めてくれ……許してくれ」
次々と兵士達は武器を手放して両手を上げると、そんな彼等を見てレナ達も武器を下す。エルフの戦士も魔人も戦意喪失した彼等を見て武器を下ろす。
これ以上の戦闘は負傷者を増やすだけだと判断し、地上の戦況は完全にレナ達が掌握した。残されたのは上空を浮かぶ飛行船だけだが、地上に獣人兵が存在する限りはイレイナは魔大砲を撃ち込まれる事はあり得ない。
「よし、地上はもう大丈夫だ。後は飛行船だけか……」
「あそこにイレイナというガキがいるんだな?」
「イレイナを何とかする事が出来れば俺達の勝利、という話だったな」
「レナ君とそっくりの女の子があそこに……」
「行きましょう、レナさん!!私達ならば飛んで行けますわ!!」
「うん、そうだね」
ドリスの言葉にレナは頷き、この場で空を飛ぶことが出来るのは重力を操れるレナと、氷の翼で空を飛べるドリスだけである。二人はイレイナの元へ向かおうとした時、ここで飛行船から飛び降りる影が存在した。
最初はイレイナが降りてきたかと思われたが、すぐにその影の形が人間ではない事に気付く。それは全身が赤色の鱗に覆われ、口元から炎を迸らせながら地上へと降りたつ。その姿を見たレナ達にとっては嫌な思い出がある相手だった。
「グガァアアアアッ!!」
『……火竜!?』
飛行船から下りてきたのは火竜の幼体であり、レナ達はそれを目にして戦闘態勢に入った。火竜は地上へと降り立つと、口元に含んでいた火属性の魔石を噛み砕き、魔力を吸収する。その火竜の姿を見て以前に対峙している戦士長のリドは他の者達に注意を行う。
「いかん!!炎の吐息を吐くつもりだ!!全員、警戒しろ!!」
「アガァアアアッ……!!」
「させるかっ!!」
火竜が口内から火炎を発射する寸前、咄嗟にレナとドリスが動く。レナは掌を地面に押し当てると瞬時に土壁を作り出し、火竜の周囲を取り囲む。火竜は口元から火炎の塊を吐き出した瞬間、土壁に衝突して爆発を引き起こす。
「うわぁっ!?」
「ぐぅっ!?」
「畜生、またこいつと戦うのかよ!?」
「弱音を言っている場合ではないですわ!!」
土壁によって爆発の規模は最小限に食い止められたが、火炎の吐息の爆発によって土壁は崩れ去ると、火竜が姿を現す。黒煙を振り払いながら火竜は自分を邪魔したレナに視線を向けると、彼の元へと駆け出す。
「グガァアアアッ!!」
「このっ……調子に乗るな!!」
正面から突っ込んできた火竜に対してレナは闘拳を構えると、金具を取り外して「飛来拳」を放つ。重力の衝撃波によって飛ばされた闘拳に対し、火竜は上空へ飛んで回避する。
「ガアッ……!?」
「皆、レナを守れ!!」
「勇者様を援護しろ!!」
「ウォオンッ!!」
火竜がレナを狙うのを見て他の者達も動き出し、エルフの戦士は矢を放ち、魔人も動き出す。当然ながらコネコ達もレナを守るために火竜の元へ向かう。
いくら竜種の火竜と言えど、まだ幼体であるならば戦闘力自体は前回にレナ達が戦った火竜よりも大きく劣るのは間違いなく、倒すのならば今しかなかった。災いの種となり得る存在を打ち倒すためにレナも立ち向かおうとした時、ここで上空から凄まじい勢いで何かが降りてきた。
「うわっ!?」
「な、何だ!?何が起きてきたんだ!?」
「あれは……まさか!?」
上空から飛来してきた物体に地上の者達は戸惑うと、やがて土煙が晴れて降りてきた人物の正体が判明する。その人間の顔を見たコネコ達は唖然とした表情を浮かべ、一方でレナの方も冷や汗を流す。
「イレイナ……」
「……決着を付けてやる」
遂に飛行船から降り立ったイレイナはレナと向かい合い、彼女は以前に遭遇した時は身に付けていなかった「鎧」を装備していた。その鎧を見た瞬間、西里と南里の族長が動揺をの声を上げる。
※本日は1話のみです。
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