第817話 戦況逆転
「全く、あれほど調子に乗ってはいけないと言ったのに……そういう所は変わってませんね」
「へへっ……悪いな、ナオの姉ちゃん」
「な、何だお前は!?」
「……貴方が獣人国の将軍ですか」
ガロウは自分の斧を素手で受け流したナオを見て動揺し、その一方でナオはコネコを立ち上がらせるとガロウと向き合う。彼女は目つきを鋭くさせ、ガロウの元へ音もたてずに静かに接近すると、彼の腹部に両手を押し当てる。
「発勁」
「ぐはぁあああっ!?」
「うおっ!?あ、相変わらず凄い威力だな……」
ナオの足元の地面に亀裂が走ると、次の瞬間にガロウの身体が大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。まるで肉体の内側から衝撃を伝えられた様にガロウは悶絶し、その光景を見たコネコは冷や汗を流す。
修行を終えて一段とたくましくなったナオに対してレナ達も感心する一方、ガロウが吹き飛ばされた事で獣人兵の士気は一気に下がり、彼等は信じられない表情を浮かべる。
「う、嘘だ……あのガロウ将軍が倒されるなんて」
「な、何者なんだこいつら!?」
「く、くそっ……怯むな!!数は俺達の方が多いんだ!!」
ガロウが吹き飛ばされた事で兵士達は怖気づくが、ここまできた以上は撤退など出来ず、彼等は最後まで戦おうとした。しかし、そんな彼等の元にまるでボアのように突進を仕掛ける巨体の男が現れた。
「どすこい、どすこい、どすこい、どすこぉいっ!!」
『うぎゃあああっ!?』
「こ、今度は何だぁっ!?」
獣人兵が次々と空へと吹き飛び、何事かと全員が視線を向けると、そこには突っ張りを繰り出すデブリの姿が存在した。既に戦闘状態(マワシ状態)に陥ったデブリは腕を振りかざし、一度の攻撃で数名の兵士を吹き飛ばす。
「どすこいっ!!」
「あがぁっ!?」
「ぎゃああっ!?」
「ひでぶぅっ!?」
巨人族にも劣らぬ膂力で次々とデブリは兵士を吹き飛ばし、瞬く間に数十名の獣人兵を戦闘不能に追い込む。しかも彼だけではなく、他の場所でも次々と獣人兵の悲鳴が上がる。
「辻斬り」
「いでぇっ!?」
「大車輪っ!!」
「あだだだだっ!?」
遅れて到着したシノとミナも獣人兵に対して戦技を繰り出し、次々と兵士を倒す。一騎当千といっても過言ではない実力者が揃い、戦況は一変した。
戦車は破壊され、飛行船は地上からの砲撃を警戒して上空へと飛び、更にはガロウさえも倒された。もうこの状況では地上の獣人兵に逆転の余地はなく、次々と獣人兵は打ち倒されていく。
「ま、参った!!俺達の負けだ!!」
「降参する、もう許してくれ!!」
「もう嫌だ、止めてくれぇっ……!!」
「……何だ、僕が出る必要もなかったな」
「だ、団長!!」
次々と残された獣人兵は武器を落として降伏を宣言すると、遅れて到着したルイは肩をすくめる。ルイも訪れた事にイルミナは歓声を上げ、獣人兵は更に訪れた援軍に表情を引きつらせる。
「おおっ、勇者様……我々は信じておりました、必ず来て下さると……!!」
「遅れてごめんなさい……でも頼りになる仲間を連れてくる事が出来ました」
「勇者様だ、勇者様が戻ってこられたぞ!!」
「おおっ、勇者様万歳!!」
「ゆーしゃさま……?何の話をしてるんだこいつら?」
「さあ、良く分かりませんわね」
レナの元にライクとアルフが駆けつけ、その場で平伏する。その様子を見ていたエルフの戦士は騒ぎ出し、勇者の末裔であるレナが訪れた事に歓喜した。その様子を見ていたコネコ達は状況が掴めずに首を傾げた。
「ぐううっ……な、何が勇者だ……ふざけやがって!!」
「が、ガロウ将軍!!もうこれ以上は……」
「うるせえっ!!退きやがれっ!!」
「ぐあっ!?」
しかし、たった一人だけこの状況の中でも諦めない者が存在した。度重なる攻撃によって傷だらけになりながらも、神器アックスを手にしたガロウは立ち上がる。
彼がいくら頑張った所でこの状況を打破できるはずがないが、ガロウはレナを目にして妄執に囚われたように彼の元へ向かう。
「お前さえ、お前さえ捕まえれば……!!」
「何ですの、この方……」
「き、気持ち悪い奴だな……」
「どうしてそこまで……」
身体をふらつかせながらもレナに向かおうとするガロウにコネコ達は薄気味悪さを覚えるが、そんな彼に対してレナは闘拳を構えると、ゆっくりと歩み寄る。
「皆、下がってて……この人は俺が倒すよ」
「ちっ……その面で、喋るんじゃねえよっ!!」
イレイナと瓜二つの顔立ちのレナの言葉を聞いてガロウは怒りを抱き、最後の力を振り絞って神器アックスを振りかざす。それに対してレナは闘拳を構えると、限界まで魔力を込めて迎撃の準備を行う。
「兜割りぃいいっ!!」
「
ガロウはアックスの柄を伸ばしてレナの事を捕まえるのを忘れ、殺すつもりで振り下ろす。その攻撃に対してレナは闘拳に限界まで魔力を封じ込めて「極化現象」を引き起こすと、刃の部分に叩き込む。
「はぁああああっ!!」
「なぁっ……!?」
極限まで地属性の魔力を宿した闘拳が刃に叩き込まれると、次の瞬間に神器アックスの刃が砕け散り、周囲に破片が散らばる。その光景を目にしたガロウは目を見開き、伝説の勇者の武器が破壊されたという事実に理解が追いつかない。
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