第814話 乱戦
「あの馬鹿め、戦車だけで十分に事足りたのに兵士を下ろすからだ。おい、念のために魔大砲の準備は整えておけ」
「はっ、分かりました!!」
「イレイナ様、おらと火竜はどうしたらいいだ?」
「カイヌか……お前はまだここにいろ、大丈夫だ。何があろうと私が守る」
「んだっ……ありがとう、イレイナ様」
イレイナの傍にはカイヌが控え、彼は檻の中に捉えている火竜に視線を向ける。この状況で火竜を到来させれば味方にも大きな被害が生まれる可能性もあるため、魔大砲と同様に控えさせるしかなかった。
ガロウが調子に乗って飛行船の獣人兵を繰り出さなければ魔大砲で敵を脅し、降伏に追い詰めた可能性もあった。しかし、彼はともかく獣人兵を見捨てるわけにはいかず、イレイナは地上の様子を伺う。
「敵の中に砲撃魔導士も混じっているな……上昇する、この高度でも安全とは限らん。地上はガロウに任せろ!!」
「はっ!!イレイナ様!!」
飛行船を更に上昇させて地上からの砲撃に備え、地上に関してはガロウと獣人兵に託す事にした。ガロウの事は個人的には嫌っているイレイナだが、彼が神器を持ち出せば負けるとは思っていなかった――
――地上ではガロウは神器アックスを振りかざし、次々と近づいてくる魔人やエルフの兵士達を薙ぎ倒す。伸縮自在に柄を伸ばす事で射程距離を自由に変化させ、次々と自分に迫りくる敵を吹き飛ばす。
「うらぁあああっ!!その程度か、蛮族共がっ!!」
「ぐあっ!?」
「ギャインッ!?」
「このっ……撃て、奴を撃て!!」
弓兵がガロウに向けて矢を放つと、それに対してガロウは余裕の笑みを浮かべて神器アックスを下に構えて柄を伸ばす。
「甘いんだよ!!」
「と、跳んだっ!?」
「まずい、避けろっ!!」
アックスを下に向けて伸ばす事でガロウの身体は浮き上がり、上空へと一瞬で移動を行う。その状態から更にガロウはアックスを短くさせると、今度は上空から斧を伸ばして振り下ろす。
「兜割りぃっ!!」
「ぐああっ!?」
「うぎゃあっ!?」
「ぐはぁっ!?」
上空から振り下ろされた斧が地上に存在する者達を吹き飛ばし、斧が地面に突き刺さるとガロウは柄を短くして地上へと着地する。彼の攻撃によって周囲に存在する人間は敵味方関係なく被害を被る。
敵だけならばともかく、ガロウは味方に対しても遠慮なく攻撃を繰り出し、彼の配下達でさえもガロウには迂闊に近づけない。神器を取り出したガロウは手が付けられず、狂戦士と化したように暴れまわる事から彼は「狂獣将軍」という異名を持つ。
「しょ、将軍!?味方も巻き込まれています、お辞め下さい!!」
「うるせえっ!!死にたくなければ俺に近付くな!!さっさと敵をぶっ殺せ!!」
「そんな、無茶苦茶だ!!こんなのやってられ……ぐあっ!?」
「おっと、敵前逃亡は死刑だ!!お前等は俺の言う通りにしてりゃいいんだよ!!」
歯向かう者ならば味方であろうと容赦はせず、ガロウに文句を告げようとした兵士はアックスによって斬り付けられる。その光景を目にしたカツは苛立ちを抱き、自分の手にする戦斧に不満を漏らす。
「くそっ!!こんな時に俺の大盾とランスがあれば……!!」
「あの男、性格は最悪だがあの神器とやらを使いこなしている……強いぞ」
「退きなさい!!」
ガロウに対してカツとダンゾウも迂闊に近づけない中、イルミナは杖を構えて砲撃魔法で彼を狙い撃つ。使用する魔法は速攻性に優れた雷属性の砲撃魔法を放つ。
「ライトニング!!」
「ぐうっ!?」
「やったか!?」
イルミナが魔法陣から電撃を放つと、ガロウの神器に的中して電流が迸る。その光景を見て武器を通してガロウが感電したかと思われたが、彼は何故か狂ったような笑い声を上げた。
「あ~あ、使っちまったな!!」
「なっ!?どうして……」
「生憎だが、こいつはあらゆる魔法を吸収する力を持つ!!何しろ伝説の勇者の武器だからな!!どんな魔法だろうとこの斧は吸収し、俺を守る!!そして吸収した魔力は……こうして使う事も出来るんだよ!!」
電流を帯びた状態でガロウは斧を振り払うと、刃から電流が迸り、周囲の者達に襲い掛かった。イルミナの放出した雷属性の魔力を全て吸収したらしく、近くに存在した者達は電流を浴びて感電してしまう。
まさか魔法さえも吸収する能力を持っているとは思わず、カツとダンゾウも斧から放たれた電流を受けて膝をつく。イルミナはその光景を目にして表情を青ざめ、最悪の相性の敵と出会ってしまった。
「さあ、今度はお前の番だ!!くそアマァッ!!」
「くぅっ!?」
「させるかっ!!」
イルミナに向けて斧を伸ばして振り下ろしてきたガロウに対し、両手に棍棒を構えたミノが飛び出して彼の斧の一撃を受け止める。しかし、斧からはまだイルミナから吸収した電流が迸り、ミノの身体に襲い掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます