第813話 ガロウの奥の手
「うおりゃあっ!!」
「ふんっ!!」
ガロウとカツの戦斧が衝突し、金属音が鳴り響く。ガロウは戦車から外に出ると、正面からカツと斬り合う。互いに戦斧を使用し、ほぼ互角の攻防を繰り広げる。
「うおおおおっ!!」
「おらぁっ!!」
戦斧の刃が幾度も交わり、徐々にカツがガロウを押していく。しかし、自分が押されているにも関わらずにガロウは余裕の表情を浮かべ、その彼の反応を見てダンゾウが声をかける。
「カツ、油断するな!!その男は……」
「うおおっ!!」
「くくくっ……見せてやる、勇者が作り出した「神器」の力を!!」
後方に跳んだガロウは戦斧を振りかざすと、間合いの外だというのに戦斧を突き出す。その行動にカツは疑問を抱くが、振り抜いた瞬間にガロウが手にした戦斧の柄の部分が伸びて刃が迫る。
「死ねぇっ!!」
「うおおっ!?」
「カツ……ぐおっ!?」
「まさかっ!?」
ガロウが突き刺した戦斧は柄の部分が伸びた事で射程が変化し、咄嗟にカツは防御しようとしたが、勢いを抑えきれずにダンゾウの元まで吹き飛んで彼を巻き込む。その光景を見てイルミナは信じられない表情を浮かべた。
仮にも黄金冒険者である二人を吹き飛ばしたガロウは笑みを浮かべ、戦斧を元の状態へと戻す。彼が使用している戦斧の正式名称は「神器アックス」と呼ばれ、この武器は獣人国に伝わる勇者の武器である。
「どうだ、驚いただろう?こいつはな、獣人国で召喚された斧の勇者が残した武器だ!!」
「神器!?噂には聞いた事がありますが、まさかそんな物まで持ち込むなんて……」
「うぐっ……くそ、何が神器だ!!ただ、柄が伸びるだけだろうが」
「ぐうっ……しかし、厄介な武器である事に変わりはないぞ」
カツはダンゾウに起こされる形でどうにか立ち上がり、現在はいつもの甲冑を身に付けていない分、防御力も低下していた。その様子を見てガロウは勝ち誇った笑みを浮かべ、彼は神器アックスを天に翳す。
「頃合いだ!!お前等も下りて来い!!エルフ共を蹂躙しろ!!」
『うおおおおっ!!』
神器が伸びた瞬間、それが合図だったのか飛行船から縄が落とされ、数百名の獣人兵が地上へと降下を始めた。その様子を見て敵が一気に押し寄せれば自分達だけではなく、エルフ達の身が危ないと判断したイルミナは広域魔法を発動させようとした。
「サンダー……!!」
「おっと、させるか!!」
「いかんっ!!」
イルミナが魔法を発動させる前にガロウは斧を放ち、彼女を狙う。咄嗟にダンゾウが前に出てイルミナを庇うが、魔法の詠唱は中断してしまう。
「てめえらの相手は俺だ、邪魔はさせねえぞ!!」
「くっ……」
「おのれっ……!!」
「くそ、降りてくるんじゃねえっ!!」
ガロウのせいでイルミナたちも行動を抑えられ、その間にも大量の獣人兵が地上へと降りたつ。エルフの戦士達は迎撃しようと身構えるが、敵には魔大砲を搭載した飛行船と戦車が2両も存在した。
状況的にはイルミナたちは追い詰められ、徐々に迫りくる獣人兵に対してエルフの戦士達は後退する。このままではガロウの言う通りに「蹂躙」されるのは分かっているが、ここで森の中から獣のような叫び声が鳴り響く。
――ウォオオオオッ!!
森の中から多数のゴブリン、コボルト、ファングの群れが出現し、そしてボアに乗り込んだミノが姿を現す。獣人兵は後方から出現した魔獣の群れに対して驚愕の表情を浮かべ、彼等に目掛けて「魔人」は突っ込む。
「獣人共をぶっ倒せ!!仲間を救えっ!!」
『ギィイイイッ!!』
『ガアアアアッ!!』
ミノの言葉に従って魔人たちは獣人兵へと襲い掛かり、思わぬ奇襲に獣人兵は反応できず、ガロウの方も魔人の存在を忘れていた。
「ガアッ!!」
「ぐああっ!?」
「ギギィッ!!」
「いでででっ!?」
「うおりゃあっ!!」
「がはぁっ!?」
「な、何をしている!!馬鹿共がっ!!」
魔人は獣人兵に果敢に挑み、特にボアに乗り込んだミノは両手に棍棒を抱えて次々と敵を蹴散らす。その様子を見ていたエルフの戦士達も活気づき、共に戦うために駆け出す。
「我々も続け!!彼等の勇気に応えるんだ!!」
「ここは我々の島だ!!」
「侵略者を許すなっ!!」
「おおっ!?その調子だ、行くぞ!!」
エルフの戦士達も士気を取り戻すと魔人と共に獣人兵に突っ込み、彼等と協力して戦う。その様子を見てカツも活気づき、ダンゾウも闘拳を装備すると、イルミナも頷く。
魔人の援軍によって完全に流れはこちら側の有利となり、飛行船から様子を伺っていたイレイナは乱戦状態に陥った地上を見て眉をしかめる。敵味方が入り乱れた状態では魔大砲は使用できず、下手をしたら味方を巻き込みかねない。魔大砲の魔石砲弾は威力が大きい分に規模も広く、下手に味方がいる戦地で使用すれば味方側の被害は免れない。
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