第811話 南里の窮地
――時刻は少し前に遡り、密林に覆われている南里では飛行船と戦車が乗り込む。飛行船は空を移動し、戦車の方も同様に浮上して障害物となり得る木々を乗り越えていく。
本来、上空にはペガサスやグリフォンなどの魔物が多数存在するのだが、それらの魔物に対して飛行船の帆の部分に魔除けの石が複数設置され、魔物を近寄らせない。
「はっはっはっ!!遂に見えてきたぞ、エルフ共の住処が!!」
「……まずは最初に降伏勧告を行え、東里の時のような勝手な行動をするなよ」
「ちっ、面倒だな……分かってるよ。おい、戦車を下ろせ!!」
「偉そうに指図するな」
ガロウは甲板にて密林の中に存在するエルフの里に視線を向け、その場所に向けて戦車を下ろすようにイレイナに指示する。彼女はガロウが戦車に乗り込むと、手を動かして戦車をゆっくりと降下させていく。
この際にガロウは戦車に大きな旗を仕掛け、獣人国の紋様である三本の爪痕が刻まれた旗を掲げる。その様子を地上から見ていたエルフ達は弓を構えて待ち受けると、ガロウは大声で怒鳴りつける。
「俺の名はガロウ!!獣人国の第二将軍だ!!お前達に好機を与えてやる、俺達に降伏すれば一切の危害を加えない事を約束しよう!!だが、逆らえばお前等の命はない!!男は全員殺し、女子供は奴隷として売り捌く!!さあ、選べ!!俺達に黙って服従するか、それとも奴隷として生きていくか!?」
「……何処が降伏勧告だ、ただの脅迫じゃないか」
イレイナはガロウの言葉を聞いて今すぐに戦車から落としてやりたいと思ったが、それをすればイレイナも処罰を避けられない。しかし、ガロウの言葉を聞いていたエルフ達は当然だが従うはずがなく、彼等の代表である南里と西里の族長が前に出た。
「ガロウ将軍といったな!!我々は誇り高きエルフ族だ!!誰がお前達のような侵略者の奴隷になり下がるものか!!」
「お前達の方こそ、この島から出ていくがいい!!さもなければ我々がお前達を討ち取る!!」
「ふん、交渉決裂だな……いいだろう、なら全員死ね!!」
戦車が地上に降りた瞬間、エルフ達は全員が矢を放つ。東里の戦士が扱う矢は風の魔力を纏い、自由に軌道や威力を上昇させて攻撃する事が出来る。それを確認したガロウは即座に戦車の中へと移動すると、無数の矢が戦車に突き刺さった。
「我々の怒りを思い知れ!!」
「放て!!撃ち尽くすまで撃て!!」
「うおおおおっ!!」
大量の矢が次々と戦車に撃ち込まれ、その様子を飛行船に乗り込んだ獣人兵とイレイナは見つめる。イレイナとしてはガロウが敵に討たれる分には別に問題はないのだが、残念ながらいくら魔法の力で強化しようと、ただの矢では戦車を破壊する事など有り得ない。
ガロウが乗り込んだ戦車はただの戦車ではなく、イレイナが付与魔法を施した戦車である。戦車の全体は付与魔法の魔力を宿し、全身から放たれる魔力の「膜」が防御癖となって外部からの攻撃を防ぐ。
「ど、どういう事だ!?何故、突き刺さらない!!」
「馬鹿な、ただの金属ではないのか!?」
「くそ、諦めるな!!撃ち続けろ!!」
東里のエルフが扱う矢は「魔弓術」と呼ばれる技術で魔力を纏い、その威力は鋼鉄の板であろうと貫通する事は訳はない。しかし、戦車はまるで全身がアダマンタイトで構成されているかのように硬度が硬く、撃ち込まれた矢を全て弾く。
実際の所は戦車を構成する金属自体は別に魔法金属というわけでもなく、地属性の魔石を搭載しただけの乗り物にしか過ぎない。だが、イレイナの付与魔法によって全体が地属性の魔力の膜で保護され、全ての攻撃を弾き返す。
仮に戦車に損傷を与えるとしたら魔力の膜を突破するほどの威力の攻撃か、あるいは魔力を打ち消すしかない。そうすれば戦車などただの鉄の塊と化し、動かす事もできなくなるのだが、生憎とエルフたちはどちらの方法も持ち合わせていない。
「へへへ、馬鹿共が……そんなもんでこの戦車が止まるかよ!!」
ガロウは戦車に乗り込むと、砲台を操作して事前に装弾させていた「地属性の魔石」を撃ち込む準備を行う。この戦車はかつて獣人国で召喚された勇者が設計図を残した代物であり、イレイナが付与魔法で動かすだけではなく、砲台を使用して攻撃する事も可能だった。
「さあ、喰らいやがれ!!ロックゴーレムも一撃でぶっ飛ばす砲撃をな!!」
戦車の砲台が発射するのは火薬の砲弾ではなく、地属性の魔石で構成した砲弾だった。原理はレナの魔銃と同じだが、違いがある点は砲弾と弾丸では規模が大きく違い、ガロウは標準を定めてまずは里内に存在する族長の屋敷を狙いに定めた。
里の中に存在する最も大きな建物に目掛けてガロウは発射すると、次の瞬間に砲台から凄まじい勢いで魔石の塊が放たれ、屋敷の方角へ向かう。砲弾が屋敷に衝突した瞬間、強烈な衝撃波が襲って屋敷を跡形もなく粉々へ吹き飛ばし、エルフ達もその余波で地面に倒れる。
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