第810話 転移の鍵

「つまり、分かりやすく言えば島に暮らしているエルフ達が所持していた勇者の装備品は「鍵」なんだ。本来であればこの島を移動するには各里に訪れて試験を受け、その試験を突破した時に勇者の装備品を受け取り、この場所に奉じる。そして全ての勇者の装備品を集めた時、転移台の制限は解除される仕組みになっていたんだ」

「そういう事でしたの……という事は今はレナさんの手元に二つの勇者の装備品があるから、この二つを奉じれば残りは二つなのですね?」

「ああ、そしてその内の一つは敵が持っており、もう一つは南里の方で預かってもらっている」

「くっ……そういう事なら兜も持ってくるべきでしたね」



話を聞き終えたレナは申し訳なさそうな表情を浮かべた。北里の長老から託された兜は南里に置いて来てしまった理由、それは単純にレナが兜を身に付けて戦う事はなく、第一に剣と盾と違って兜の方は身に付けても何の効果も発揮しなかった。


勇者の剣と盾はレナが触れた途端にその力を発揮したが、兜の方は何も反応を示さなかった。特に特別な効果があるわけでもない兜を身に付けていても仕方がないと判断したレナは兜を置いて来てしまい、その事に後悔する。



「いや、仕方がないさ。まさか地下の通路にこんな場所があるなんて想像もしていなかった。だが、この日記によると全ての装備品を抑えなくても、各里が管理している勇者の装備を捧げれば制限の一部が解除される。分かりやすく言えば装備品を管理していた里に自由に転移できるはずだ」

「という事は……勇者の盾を奉じれば西里、勇者の剣を奉じれば南里へ転移できるようになるんですか?」

「あくまでもこの日記によればだが……試してみる価値はある。レナ君、水晶剣をここへ」



レナはルイの言葉に頷き、水晶のように美しい剣を祭壇へ持っていくと、窪みに嵌め込む。その直後、祭壇が光り輝くと激しい振動が襲う。



「うわわっ!?」

「じ、地震か!?」

「いや……恐らく、この真上に存在するはずの転移魔法陣に異変が起きたはずだ。行ってみよう!!」

「あの、この勇者の盾は……」

「それはまだ持っていてくれ!!まずは上の様子を確かめよう!!」



ルイの言葉に全員が従い、すぐに転移魔法陣の様子を調べるために移動を行う――






――地上の方へ移動すると、島に繋がる転移台の前に兵士と冒険者が集まっていた。彼等はルイ達が到着すると、慌てた様子で転移台の魔法陣を指差す。



「お、おい!!あんたら、これを見てくれよ!!」

「魔法陣の紋様が変化したんだ。しかも今までに見たことない形だ!!」

「退いてくれ!!」



魔法陣の紋様が変化したという話にルイはすぐに確認すると、紋様の形が五つの魔法陣が東西南北と中央の部分に並び、その内の中央と南側の魔法陣には「線」が繋がっていた。他の北、西、東の魔法陣は光り輝いておらず、中東と南側の魔法陣だけが光り輝いてた。



「やはり、そういう事か……恐らく、これで南里に限っては自由に転移できるはずだ」

「じゃあ、もう自由に南里へ出入りできるんですか!?」

「ああ、恐らくまだ全ての勇者の装備品を捧げたわけではないから南側の転移台に移動する事は出来ても帰還するには中央の転移台を使用しなければならないが、南里への転移だけなら指定できるはずだ!!」

「なら、すぐに戻りましょう!!もう南里が攻撃を受けている可能性もあります!!」



レナは南里に向けて既に獣人国の軍隊が動き出している事を思い出し、一刻も早く南側へ向かう事を提案する。しかし、その言葉に対してルイは難しい表情を浮かべた。



「レナ君、君は事情を知らないから仕方ないが……私が帰還した後、国王様に報告した結果、ヒトノ国は表立って獣人国と対立する事を避けるためにまずは交渉を行うように指示を出してきたんだ」

「交渉!?でも、あいつらは……」

「分かっている、そのガロウ将軍とやらがどれだけ非道な人物かは聞いた。しかし、こちら側から攻撃を一方的に仕掛けるわけにはいかないんだ」

「そんな……」

「……だが、仮に相手が交渉をせずに攻撃を先に仕掛けた場合は別だ。その場合は僕達も反撃に移させてもらう」

「えっ?」

「出発だ!!戦える者はこの転移台の上に移動してくれ!!」



ルイは笑みを浮かべると、すぐに転移台の上に乗り込んでレナに手を伸ばす。レナはルイが最初から南里の救出に向かう事を覚悟していた事を知り、手を握りしめる。


話を聞いていた周囲の兵士や冒険者達は獣人国の軍隊と戦うかもしれないという事に躊躇するが、当然であるがミナ達は躊躇なく乗り込む。



「今度は一緒に行くぞ、兄ちゃん!!」

「レナ君だけを一人で行かせないよ!!」

「二人に同意」

「僕も暴れる準備は整えたぞ!!」

「行きますわよ、ナオ!!」

「勿論!!」

「皆……頼りにしてるよ!!」



迷いなく転移台に乗り込んでくれたミナ達を見てレナは感動を覚えるが、すぐに気を引き締め直す。今度の獣人兵との戦闘は本格的な物であり、相手は全力で殺しに来る。そしてガロウやイレイナとの戦闘も考えられた。

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