第807話 転移するのは……

「待ってください!!あれを見て、転移台が今なら使えます!!」

「ああっ!?おい、何を言ってんだ!!今はそれどころじゃ……」

「いいから話を聞きなさい!!」



イルミナの言葉にカツは怒った風に彼女に振り返るが、イルミナは転移台が今ならば使える事を確認すると、彼女はレナに視線を向けた。



「レナ!!今すぐに貴方だけでも元の世界へ戻りなさい!!」

「えっ!?で、でも……」

「いいから私の話を聞きなさい、貴方に頼みたいことがあるんです!!」



レナの肩を掴み、イルミナは転移台を使用する絶好の好機を逃すわけにはいかず、彼女はダンゾウが抱えている地竜の核を指差す。



「貴方は転移台を利用してこの地竜の核と一緒に王都へ転移するんです!!そして王都に存在する鍛冶師たちにこの地竜の核を加工してもらい、強力な武器を作りなさい!!」

「な、何だって!?」

「なるほど……確かにその手が確実だな」



この島に暮らすエルフの鍛冶師では地竜の核の加工に失敗する可能性もあり、それならばレナに地竜の核を持たせて王都へ引き返させ、彼の専属鍛冶師であるムクチやゴイルに任せた方が確実だとイルミナは判断した。


しかし、この状況でレナが抜ければ戦力的には大きな穴が開く。だが、仮にレナが残って島の者達と戦っても勝てる保証はない。それならばレナを王都へ送り込み、他の者達と合流させて島に戻る方が確実である。



「これは貴方にしか出来ません!!仮にこの島に戻ってきてもすぐに南里に移動する手段を持つのは貴方だけです!!さあ、早く行ってください!!」

「けど……」

「レナ、ここは俺達に任せろ。それとも、俺達の事が信じられないのか?」

「おいおい、俺達の力を舐めるんじゃねえよ!!お前がいなくても、あんなやつらどうにでもなるんだよ!!」



イルミナの話を聞いてカツとダンゾウはレナを安心させるように促すが、今も話している間にも獣人国軍の戦車と飛行船は南里に向けて移動を行っていた。その光景を確認してレナは悩んでいる暇はないと判断し、転移台を振り返る。



「……分かりました、俺は王都に戻ります!!でも、すぐに戻ってきますから!!」

「ええ、私達な大丈夫です。一刻も早く、団長と共に戻ってきてなさい」

「核は任せたぞ」

「行ってこい!!」

「なんだかよく分からないが……ここへ戻ってくるんだよな?なら、さっさと用事を済ませて来いよ!!」



レナはダンゾウから核を受け取ると、皆に見送られる形で転移台の元へ走り出す。付与魔法を発動させて重たい核を上手く運び出し、転移台の元へ向かう。


転移台へ到着するとレナは肌身離さず持ち歩いていた転移石を取り出し、転移台の中央へと嵌め込む。転移台の使用方法は団長が発動する場面を見ていたカツから話を聞いており、転移台を嵌め込んだ瞬間に転移台が光り輝き、光の柱と化してレナの身体を包み込む。


その光景は飛行船に乗り込んでいたイレイナも確認し、彼女は転移台の方で何かが起きた事に気付くが、既にレナは王都へ向けて転移していた――






――光の奔流に飲み込まれたレナは地竜の核を手放さないようにしっかりとしがみつき、やがて見慣れた風景が視界に映し出される。レナは身体を起き上げると、自分が王都の転移魔法陣が刻まれた広場に帰還を果たした事を確認した。



「やった……本当に戻ってこれた」

「に、兄ちゃん!?」

「レナさん!?本当にレナさんですの!?」

「その声は……コネコにドリスさん!!」



レナは聞きなれた声を耳にして振り返ると、そこにはコネコとドリスの姿が存在し、二人は転移魔法陣の前で荷物を抱えた状態で待ち構えていた。どうやらずっとここで待っていたのかからの弁当箱や水筒も転がっており、二人は嬉しそうな表情を浮かべてレナに抱き着く。



「兄ちゃん!!良かった、心配させやがって!!」

「会いたかったですわ!!」

「うわっ……二人とも、敢えて嬉しいよ」



コネコとドリスと再会できた事にレナは喜ぶが、すぐに用事を思い出してレナはコネコとドリスに話しかける。



「コネコ、ドリスさん、今は詳しい事を話す暇はないんだ!!俺が戻ってきた事をすぐに他の人に知らせて欲しい!!今から俺は工場区の方へ向かう!!」

「工場区?どういう事ですの?」

「詳しい話はムクチさんとゴイルさんの店でするから……うっ!?」

「兄ちゃん!?急にどうした!?」



レナは工場区にいる鍛冶師達の元に向かおうとしたが、ここで膝を崩してしまう。よくよく考えれば最近は碌に身体を休まず、しかも直前まで地竜の核を回収するために大量の魔力を消耗していた事を忘れていたレナは大きな疲労感に襲われた。


こんな所で休んでいる暇はないのだが、身体の方は言う事を聞いてくれず、今にも意識を失いそうだった。そんな彼を見てコネコとドリスは只事ではないと悟り、二人はレナに肩を貸そうとした時に聞きなれた声が響く。

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