第802話 行方不明の赤子

「おい、その化物を檻に入れろ」

「えっ……」

「しょ、将軍!?いったい何を言って……」

「いいからやれ!!こいつらはもう必要ない!!」



カイヌはガロウの言葉を聞いて動揺し、他の兵士達もガロウの言葉を聞いて信じられない表情を浮かべる。しかし、当のガロウ本人は本気で言っているのかカイヌの元に近付き、彼の膝を蹴りつけた。



「さっさとやれ、このうすのろ!!」

「うぐっ!?け、けど……そんな事をしたら、火竜は抑えきれない。兵士達、全員を食い殺すかも……」

「だから、それでいいんだよ。こんな役立たず共、俺の部下にはいらねえ」

「将軍!?お辞め下さい!!」

「ど、どうか命だけは!!」



檻の中に閉じ込められた獣人兵は必死に助けを求めるが、そんな彼等に対してガロウは鼻を鳴らし、カイヌに命じて火竜を牢獄へと近付けさせる。


自分達が閉じ込められた牢獄に火竜が近づく光景に兵士達は恐怖を抱き、ガロウの性格を考えれば彼が本気で自分達を殺そうとしている事は間違いない。何としても彼を説得するため、ここで兵士の一人が必死に叫ぶ。



「お待ちくださいガロウ将軍!!我々は奴等の中にイレイナ様と同じ魔法を使える者を確認しました!!」

「そんな事は俺も聞いてるんだよ!!地属性の付与魔術師が敵の中にもいるという話だろ?」

「で、ですが……その者はイレイナ様と瓜二つの顔をしていたのです!!それも人間の少年でした!!」

「……何だと?」



ここでガロウは兵士の言葉を聞いて眉をしかめ、確かに彼は先日の襲撃にて敵の中に地属性の付与魔術師の使い手がいる事は聞いていた。しかし、その人物がイレイナと容姿が似ているという話までは聞いていない。


地属性の付与魔法を得意とする付与魔術師が島にいたというだけでも驚きだが、イレイナと容姿が似ているという話にガロウは引っかかる。捕まった獣人兵が苦し紛れに嘘を吐いたという様子でもなく、彼等は必死に生き残るために自分達が知る情報を話す。



「奴等の中には鬼人族の男もいました!!どうやら奴等の会話から察するに敵は南側に拠点があるようです!!」

「南側だと……それは確かだろうな?」

「はい、嘘は申しておりません!!」



ガロウは兵士達の言葉を聞いて腕を組み、彼等の言う事が正しければ敵の拠点は島の南側に広がる密林に存在する事は間違いなかった。また、ガロウはイレイナと敵の付与魔術師が瓜二つの顔立ちであるという点に疑問を抱く。



(どういう事だ?同じ職業に同系統の魔法の使い手だけならともかく、顔立ちまで似ているだと?まさか、イレイナの兄妹か?いや、あいつに兄妹がいたなんて話は聞いた事がねえ……待てよ、そういえばあいつが生まれた時、妙な噂が流れたな……まさか、あの噂は本当だったのか!?)






――十数年前、大将軍のライオネルの子供であるイレイナが誕生した時、奇妙な噂が流れた。それはライオネルに長年使え続けていた使用人が疾走したという。その使用人の姿を最後に見た者によると赤ん坊を抱きかかえていたという。


結局はその使用人は見つからず、未だに行方不明のままだが、その抱きかかえていた赤ん坊の正体は判明していない。その使用人は既に年老いた女性で子供が埋めるような年齢ではなく、そもそも彼女が妊娠していたという話は聞いた事がない。


ライオネル本人はこの噂を聞いて確かに自分に仕えていた使用人が行方不明になった事は認めたが、赤ん坊の存在に関しては彼は何も知らないと告げた。世間では実は生まれてきたは双子でその子供を使用人が連れ去ったのではないかという噂される。


しかし、仮にも大将軍であるライオネルが使用人に自分の子供を奪われて逃げられたのであれば放置するはずがなく、何としても取り返そうとするだろう。しかし、彼は消えた使用人の行方を探す事もしなかった。ライオネルの人柄を知る人間は彼の性格を考えれば自分の子供を見捨てるはずがない




だが、この噂を聞いたときにガロウが気になったのはイレイナの母親に関する事だった。イレイナの母親はライオネルの正妻ではなく、側室だった。その側室というのが実はの女性であったことを思い出す。




獣人族であるライオネルと、人間である母親から生まれてきたイレイナは父親の血を濃く継いで獣人族として生まれた。そして母親の方は出産の際に何らかの事故によって死亡したとガロウは聞いていた。


イレイナの母親が死んだ後にライオネルに仕えていた使用人が赤ん坊を連れて逃げたという噂、その使用人に対してライオネルが何も行動を起こさなかった事、そしてイレイナと瓜二つの顔の人間の少年、これらの事がガロウの頭の中で繋がり、彼の中である推測が成り立つ。



「そうか……そういう事だったのか!!はっ、ははっ……ははははっ!!」

「しょ、将軍……どうされたのですか?」



唐突に笑い始めたガロウに他の者達は戸惑うが、ガロウからすれば笑わずにはいられなかった。今まで弱点がないように思われていたライオネルの秘密を知ったガロウは彼を出し抜き、自分が大将軍の座に就く好機が巡ってきたと確信を抱く。

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