第801話 捕虜
「ど、どうしてイレイナ様の魔法をお前が……いや、待て!!その顔、まさか……!?」
今までは暗闇のせいでレナの顔がよく見えなかったが、獣人兵はイレイナ様に瓜二つの顔をしたレナを見て激しく動揺する。そんな彼等に反応にレナはため息を吐き出し、彼等を牢極に閉じ込める事にした。
「武器と防具を全て外してください。抵抗するなら容赦はしません」
「お前等はもう負けたんだよ!!ここで逆らって生きていられると思うなよ!!」
「ぐうっ……」
レナとカツの言葉に獣人兵は悔しがるが、周囲を取り囲むエルフ達に視線を向け、本当に反抗したら殺されるのは間違いなかった。仕方なく獣人兵はその場で武装を外すと、言われるがままに牢獄へと閉じ込められる――
――獣人兵の内に5名ほど捕虜としてレナ達は連れ帰る事を決めると、残りの者達は牢獄へ閉じ込めておく。エルフ達は彼等を殺さない事に不満を抱く者もいたが、勇者であるレナの言葉には逆らわず、とりあえずは南里へ引き返す事にした。
捕虜として同行させる事を決めた5人の兵士は捕まえた兵士の中でも若手の者を選び、兵士としての任期も短い者を選ぶ。下手に年齢を重ねている者を連れてきたとしても忠誠心から口を割らない可能性もあるが、まだ国に仕える期間が短い兵士ならば忠誠心よりも自分の命を優先し、生き残るために情報を漏らすかもしれない。
それに大人数の獣人兵を同行させる事も問題があり、仮に全員を連れ帰っても管理出来ないという事情もあった。捕まえた兵士が反乱を起こして逃げ出す可能性も考慮して5人だけを連れ帰る事にしたのだが、東里のエルフは不満を抱く。
「こいつ!!よくも私を……!!」
「ぐふっ!?や、止め……」
「おいおい、止めろ!!いったいどうしたんだ!?」
「離せ!!この男は私を辱めようとした!!絶対に許せない!!」
移動の際中、捕まっていた女性のエルフが縄で縛られている獣人兵を今にも殺しかからない勢いで飛びつき、何度も顔面を殴りつける。それを見たカツが慌てて引き留めるが、彼女は興奮が収まらない。
彼女以外も獣人兵に捕まっていたエルフ達は同行させている獣人兵を憎々し気に睨みつけ、彼等にとっては獣人兵など許せる存在ではない。しかし、獣人兵が他に情報を持っている可能性を考慮すれば簡単に殺すわけにはいかなかった。
「気持ちは分かるが、落ち着け!!こいつらを殺したら情報が手に入らないだろうが!!」
「離せ、殺してやる!!こいつらのせいで私の家族は……!!」
エルフの女性はカツを振り切り、獣人兵に対して殴りつけようとしたが、その間にレナが移動して彼女の拳を代わりに受け付ける。女性はレナを殴った途端、驚いて立ち止まる。
「うぐっ!?」
「えっ!?ど、どうして……」
「勇者様!?」
「おい、何をしている!!この御方は勇者様だぞ!?」
女性のエルフは自分が殴ったレナを見て呆然とするが、すぐに同行していたエルフが女性を抑えつけようとする。そんな彼等をレナは制すると、殴られた頬を摩りながらも女性を落ち着かせようと話しかけた。
「気持ちは分かります……大切な人を奪われたり、自分を傷つけられたんですよね。その気持ちは本当に良く分かります。だけど、今は我慢して下さい」
「ゆ、勇者……様?」
「俺も昔、自分の家族を奪われた事もあります。だから貴女の気持ちも良く分かります……でも、ここでこの人達を殺すよりも生かす方が必ず貴方達のためになるんです」
「でも、こいつらは……!!」
「必ず、貴方達の家族の仇は討ちます。だから、それまでの間は我慢して下さい……苦しくても悔しくても今は我慢して下さい。俺は貴女達の味方です」
真っ直ぐにレナは女性のエルフを見つめると、彼女はそれ以上は何も言えず、黙って他の仲間の元へと引き返す。一方で獣人兵は自分を助けてくれたレナに呆然とした表情を浮かべるが、そんな彼に対してレナは何も告げずに移動を再開する――
――それから夜が明けると、東里にはガロウが部下を引き連れて赴いていた。彼は東里の兵士からの連絡が届かない事に疑問を抱き、東里の様子を伺うと、そこには何故か捕まえているはずのエルフの女子供達は消え去り、代わりに牢獄に捉えられた兵士達の姿が存在した。
牢獄に囚われた兵士達は武器も防具も食料も薬も何もかもが奪われている事を知り、ガロウは激怒する。よりにもよって貴重な物資を奪われた彼等に対してガロウは無慈悲な判断を下す。
「お前等……覚悟は出来ているな?」
「お、お許しください将軍!!」
「どうか、どうか命だけは……!!」
「うるせえっ!!てめえらみたいな役立たずは必要ねえんだよ!!」
牢越しに必死に命乞いを行う獣人兵に対してガロウは鉄格子を蹴りつけると、カイヌに視線を向けた。ガロウはカイヌが鎖で縛りつけて連れてきた火竜の幼体に視線を向け、彼に命令を下す。
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