第798話 獣人国の大将軍とその娘

――獣人国の兵士によると、彼等は獣人国の王都から訪れた国の中でも精鋭部隊だという。獣人国がどうしてこの島を襲撃したのかというと、話は今から数十年ほど前に遡るという。


この島の事は獣人国は何百年も前から存在を把握しており、獣人国の間ではこの島には「勇者の秘宝」が隠されている事と突き止めていた。獣人国が建国される前の時代に存在した国の文献を発見し、初代国王がこの島の捜索を行い、実際に見つかった。


しかし、島の周囲は岩山に取り囲まれて船を止める事が出来ず、しかも島の近くには「大渦」が存在し、下手に近付くと船が沈んでしまう。そのために獣人国の船は近づく事も出来なかった。


代々の獣人国の国王は勇者の秘宝が隠された島であるという事から幾度も島に乗り込もうとするが、海路ではどんな船を作ろうと大渦や岩山に阻まれて上陸さえも出来ず、諦めていた。




しかし、十数年前に獣人国に生まれた少女により、事態は一変した。その少女の名前は「イレイナ」と名付けられ、彼女は獣人国の大将軍である「ライオネル」の一人娘だった。イレイナは獣人族にしては珍しく、魔法の才能を持ち合わせて生まれた少女であり、しかも彼女は希少職の「付与魔術師」である事が判明する。




ヒトノ国では付与魔術師は不遇職扱いされていたが、獣人国ではそもそも魔法職の獣人という事自体が珍しく、しかも大将軍の娘という事もあって冷遇扱いされることはなかった。それどころか彼女は幼少期からその魔法の才能を開花させていく。


最初にイレイナが付与魔法の力に覚醒したのは使用人と共に馬車に乗っていた時、運が悪い事に土砂崩れに巻き込まれてしまう。救助隊が派遣された時は既に全員が生き埋めになったと思われたが、現場には自力で脱出したイレイナの姿があった。救助のために訪れた兵士達は彼女が生きていた事に驚き、すぐにライオネルの元に送り届けた。


娘が生きていた事にはライオネルも喜んだが、いったいどんな方法で彼女が助かったのか疑問を抱き、ライオネルは事故の時の状況を尋ねた。その結果、驚くべき事にイレイナは他の人間の力を借りず、自力で生き埋めの状態から抜け出した事が発覚した。



『死にたくないと思って必死に腕を伸ばしていたら、いつの間にか外に出れたの……まるで、勝手に土が動いて私を押し上げたみたい』



イレイナの言葉を聞いたライオネルは最初は半信半疑だったが、事故の日以降にイレイナは自分の「付与魔法」の力を自覚し、地面に手を押し当てるだけで彼女は意のままに土砂を操作する事が出来る事が発覚する。


ライオネルは自分の娘が付与魔術師として生まれた事を知り、事故の日から彼女の魔法の才能が開花した事を判断する。それ以降はライオネルは自分の娘であるにも関わらずに彼女に厳しい訓練を課し、彼女の才能を伸ばすために訓練を続けた。



『イレイナよ、お前は私の娘として生まれた以上、私の後を継ぐのだ。女として生まれてきたお前に剣を握らせるつもりはなかったが、お前には優れた才能がある。ならば俺は軍人としてお前を一流に育て上げる。お前はいずれ、国王様の右腕に相応しい軍人になれるように目指せ』

『は、はい!!』



父親からの期待に応えるためにイレイナはそれから必死に付与魔法の修行を行い、それから14才になったばかりの頃に彼女は付与魔法の力を覚醒させた。付与魔法が土砂を操作するだけではなく、重力としての性質を持ち合わせている事に気付いた彼女は戦闘に生かす。奇しくも同時期にレナも付与魔法の力を覚醒させており、二人は別々の場所でそれぞれの鍛錬法で付与魔法の力を覚醒させていたのだ。



『どうした!!その程度か!?』

『い、イレイナ様!!これ以上はもう勘弁して下さい!!』

『貴方様に勝てる剣士はもういません!!』

『ふん、軟弱者どもめ!!』



イレイナには剣の才能もあったらしく、彼女は付与魔法だけではなく、剣術もライオネルの指導によって磨かれ、今では並兵士では勝てないほどの腕前を誇る。魔術師だけではなく、一流の剣士としても成長を果たしたイレイナは更に力を身に付けていく。


そして今から1年と少し前、獣人国にある情報が届いた。それはヒトノ国にて「飛行船」と呼ばれる船を作り出し、空を飛んだという情報が入る。その情報を聞いた国王は飛行船を遣えば歴代の国王が叶わなかった悲願が達成できるのではないかと考えた。


すぐに国王はヒトノ国に間者を送り込み、飛行船の情報をかき集める。そして飛行船を飛ばせるのに必要なのが大量の良質な地属性の魔石と、飛行船を浮かばせるために必要な「地属性の付与魔術師の使い手」だと判明し、彼は心底驚いた。なにしろ獣人国は他の国と比べても最も地属性の魔石の発掘量が多く、しかもイレイナは地属性の付与魔法を扱える「付与魔術師」であるからだ。

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