第799話 勇者の財宝
最初から飛行船の開発に必要な二つの条件が揃っている事を国王は悟ると、すぐに彼は配下に命じて飛行船の建造を命じた。しかし、元々獣人国は海に面している国なので大船ならばいくつか所有しており、その船に地属性の魔石を取り付けるだけで飛行船の準備は整える。
イレイナの力さえあれば飛行船を浮上させて空路から島への上陸できるため、彼はすぐにライオネルとガロウに命じて勇者の秘宝が隠された「島」へと向かわせる。船の数は5つ、その内の1つを先行させて島への偵察へ向かわせた――
「――こ、これが俺達の知っている話です。俺達は国王様の命令を受けてこの島へ乗り込んだだけなんです!!」
「……そういう事だったのか」
「なるほどな、つまりお前等の船は要するにヒトノ国の飛行船の技術を盗んで作り出した船というわけか」
獣人国の兵士から話を聞き終えたレナとカツは納得し、獣人国の船がどうしてヒトノ国の飛行船と同じ方法で空を飛ぶ理由が判明して少し安心した。マドウとワドルフが数十年も費やして作り出した飛行船の技術が他国に渡っていた事は少々複雑だが、今は重要なのは獣人国がこの島に上陸した理由である。
「でも、どうして獣人国の軍隊は勇者の秘宝を狙ってるんですか?」
「そ、そんなのは決まってるだろ……あの伝説の勇者が残した秘宝だぞ?凄い財宝が隠されているかもしれないのに放っておくはずがないだろう?」
「財宝?何を言っている、この島にはそんな物は存在しない。各里のエルフ達は勇者様の装備品は預かっているが、財宝など我々は管理していない」
「そ、そんなはずはない!!確かに文献には勇者はこの島に途轍もない財宝と武器と防具を隠していると書いてあったんだ!!」
「ふざけるな!!そんな物はこの島には存在しない!!そんな情報を鵜呑みにして貴様等は我が里を……!!」
「お、おい!!落ち着けよ!?」
獣人兵の言葉に東里のエルフは激高し、今にも切りかかりそうな勢いだったが、慌てて他の者達が止める。しかし、獣人兵達はこの島には勇者の財宝が隠されていると信じ切っており、レナはそんな彼等を見て獣人国の目的が勇者の装備品ではなく、勇者が残した財宝を狙ってこの島に訪れたのかを尋ねた。
「なら、貴方達はあるかどうかも分からない勇者の財宝を手にするためにこの島まで危険を冒してやってきたんですか?」
「そ、そうだ……国王様は必ずやこの島に勇者が残した財宝があると信じておられる。だから我々は国王様の命に従い、この島にやってきただけだ!!」
「開き直るんじゃねえよ!!どんな理由だろう勝手に島にやってきて、平和に暮らしていた島の住民を襲った事に変わりはねえ!!てめえら、何様のつもりだ!?少しは恥に思わないのか、お前等のやっている事は盗賊と一緒だ!!」
「ぐうっ……」
どんな理由であろうと島に暮らしていたエルフからすれば獣人国の軍隊は勝手に島に乗り込み、一方的に勇者の装備品を渡すように宣言し、しかも逆らえば捕まえて奴隷として売り捌こうとする。仮にも国の規律を正すはずの軍隊の行う事ではない。
エルフ達からすれば獣人国の軍隊は島の外から訪れた侵略者である事に変わりはなく、話を聞き終えたエルフ達は増々に獣人兵へ憎悪を膨らませる。その一方でレナ達の方は獣人国のやり方に怒りを覚え、同時に獣人国の大将軍がこちらに向かっているという話も知る。
「おい、ライオネル大将軍とやらもこの島に向かっている話は本当か!?今はどこにいるんだそいつは!!」
「ら、ライオネル大将軍は数日程遅れた後に本隊を引き連れてこの島に到着する予定だ!!言っておくが、あの御方は獣人国の歴史の中でも最強の将軍だ!!必ず数千人の兵士を引き連れてあの方はやってくる!!もうお前達に勝ち目はない、大人しく降伏しろ!!」
「でも、それはイレイナが船をこの島に移動させなければ到着は出来ないんでしょ?つまり、イレイナさえなんとかすれば本隊はこの島に乗り込む事は出来ない」
「なっ!?そ、それは……」
「おお、図星のようだな」
「という事はあの娘を抑えれば本隊は何も出来ずに引き返すしかなくなるわけか」
レナの言葉に獣人兵は言い返せず、いくら大量の兵士を引き連れた船が島に訪れようと、飛行船を操作するのに必要なイレイナがいなければ彼等は島に上陸さえもできない。その事実に獣人兵は何も言い返せず、レナ達の目標は定まった。
「どうにかイレイナを捕まえて獣人国の本体を島に上陸させないようにしましょう。イレイナさえ捕まえればどうにかなるかもしれません」
「そうだな、まずはあの嬢ちゃんを何とかするか」
「ば、馬鹿を言うな!!イレイナ様はライオネル将軍に次ぐ剣の達人、それにあの御方の魔法に勝てる人間などいるはずがない!!」
「……といっているが、実際の所はどうなんだレナ?お前はそのイレイナと戦ったんだろ?感想を聞かせろよ」
「う~んっ……」
カツは獣人兵の言葉を聞いてレナに尋ねると、彼は難しい表情を浮かべ、まだ完治していない左腕に視線を向けた。
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