第795話 救出部隊

『おう、待てレナ!!お前だけに活躍はさせないぞ、俺も一緒に行く!!』

「カツ!?」

「いや、でもカツさんはまだ正体を知られていないし、それに一番目立つそうなんですけど……」

『ふっ、その点は俺にも考えがある!!安心しろ、要するに獣人兵の奴に見られても俺の正体が気づかれないようにすればいいんだろ?だったら、話は早い!!こうすればいいんだよ!!』



カツは立ち上がるとその場で兜を取り、素顔を晒す。その行動にレナ達は度肝を抜き、他の者達は呆気に取られた。



「どうだ!!この顔なら俺の正体がバレる事はないだろ!?」

「な、な、何を考えてるのですかぁあああっ!?」

「ひ、額に……角?」

「あ、赤色の肌……?」

「……カツ殿は人間ではなかったのか?」



堂々とカツは正体を晒すと、イルミナは今まで隠し通してきたのにあっさりと他の人間に素顔を晒したカツに頭を抱える。しかし、カツの姿を見たエルフ達は戸惑いの表情を浮かべ、魔人のミノに至っては首を傾げる。



「何だ?甲冑の兄ちゃんも俺達のお仲間なのか?」

「んな訳ないだろ!!まあ、半分は似たようなもんだがな……だが、この格好なら俺が黄金冒険者のカツだとは思わないだろ?」

「なるほど……確かに一理あるな」



変装とは違うが、確かにカツの素顔を知る人間は金色の隼の面子しか存在せず、その他の者達には彼は今までに一度も顔を見せた事がない。そう考えればカツの正体が獣人兵に知られる事はあり得えない。


鬼人族は大陸では有名な存在だが、大陸から隔離されたエルフ達はその存在を知らないらしい。島に暮らすエルフの先祖は鬼人族が魔王軍と与して大陸中の種族に恐怖を覚えさせる前に送り込まれたらしく、カツの正体を見ても驚きはしたが恐れる様子はない。これは彼の見かけが魔人族と比べれば外見は人に近いのが要因だと思われた。



「ふうっ、この鎧を脱いで戦うのは久々だな。だが、これなら文句ないだろう?」

「そ、それは構わないが、甲冑を脱いでも戦えるのか?カツ殿は重騎士なのだろう?」

「まあ、なんとかならぁっ……というか、甲冑がない方が動きやすいからな。今なら普段以上に素早く動けてむしろこっちの方が調子がいいな!!」

「全く、貴方という人は……ですが、確かに私やダンゾウが動くよりも貴方が最適かもしれませんね」

「確かにな」



救出部隊を派遣する場合、素早く動ける人間の方が都合がいい。ダンゾウの場合は巨人族なので姿が目立ち、イルミナの場合も彼女は魔法を使うとすぐに来訪者だと気づかれてしまう。エルフが扱う魔法と人間が扱う魔法では違いがあり、イルミナが手助けすればすぐに彼女が来訪者だと気づかれてしまう。


その点では今のカツは来訪者だと気づかれてもその正体までは見抜く事は出来ず、思う存分に戦う事が出来る。その一方でレナの方も既に姿を見られている以上はもう隠れる必要もなくなり、全力で戦う事が出来た。



「よし、それじゃあ東里の連中を救いに行くぞ!!皆、俺についてこい!!」

「お、おうっ……って、何処行くんだ!?あんた東里の居場所を分かるのか!?」

「こら、カツ!!待ちなさい、せめて下着姿ではなく、ちゃんと上に何か羽織りなさい!!」

「おっと、すっかり忘れてたぜ!!流石にこの格好はちょっと情けねえな……おい、誰か服を貸してくれないか?」

「うむ、すぐに用意させよう。そうだ、この際にレナ殿達も着替えられてはどうか?ここへ訪れてから休む暇も碌にありませんでしたからな。大分服も汚れているようですし、身体を清めてから出かけられてはどうですか?」

「あ、言われてみれば確かに……」

「臭った服や体のままだと獣人兵に気付かれる恐れもあるかもしれませんね……」



ライクの言葉にレナ達はここ数日は碌に身体も洗っていない事を思い出し、彼の言葉に甘えてレナ達は身体を洗って服を着替えてから出向く事にした――






――それからしばらく時間が経過した後、敵の警戒が緩む夜間の時間にレナ達は出発した。東里の集落の位置は南里のエルフ達も知っているが、東里の集落は牙竜の襲撃で崩壊し、本来は東里のエルフ達は遊牧民のように草原を移動して転々と拠点を変えて生活を送っている。


しかし、獣人兵の襲撃の際に彼等の大部分は捕まってしまい、現在は集落に引き返して地下に存在する牢獄へ閉じ込められていた。この東里の集落には魔除けの石を石柱に設置し、魔物が近づけないように細工を施した後、獣人兵が50名近くも待機し、外部からの敵に備えていた。



「ふうっ……今日も冷えるな」

「たくっ、いつまで俺達はこんな場所にいないといけないんだ?もうさっさと帰りたいぜ」

「ぼやくなよ、見張りだけはしっかりしていろよ。なんでもこの島には俺達以外に来訪者がいるみたいだからな」

「けどよ、いつまでエルフなんか見張ってないといけないんだ?」

「我慢しろ、エルフは高く売れるんだ。老いぼれはともかく、ガキや女は殺すなよ」

「へへへ……確かに女は別嬪だな。知ってるか?エルフの女の味を知ったら人間の女なんてもう抱けないってよ」

「全く、お前はいつもそっち方面に話を持っていくな……もう、確かめたのか?」

「いいや、まだだ。あいつら、手を出そうとするとすぐに自害しようとしやがるからな……まあ、その内に動けないように痺れ薬でも仕込むか?」

「お前、本当にろくでもないな……まあ、その時は誘ってくれよ?」



下種な笑みを浮かべて語り合う兵士達だったが、不意に彼等は鼻を引くつかせる。そして自分達以外の臭いが何処からか感じ取る。

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