第794話 東里の生き残り

『それにしてもあれがイレイナという奴か、確かにレナとよく似た顔をしてるな』

「えっ、ここから見えるんですか!?」

『おう、俺の視力を舐めんじゃねえ。ここからでもばっち見えらぁっ……しかし、本当に不気味なぐらいに似ているな』



カツは船上に立つイレイナに視線を向け、相当な距離があるにも関わらずにしっかりと姿を捉えた。鬼人族は視力も優れているらいく、双眼鏡も無しにカツはイレイナの様子を観察する。



『あいつら、このまま寝ずに一晩過ごすつもりか?たく、面倒だな……そういえばここにいた地竜はレナ、お前が倒したと言ってたな?余計なことをしたな、地竜の奴が生きてたらあいつらの船なんて一網打尽に出来ただろうによ』

「うっ……」

「カツ、レナをからかうのは止めなさい!!レナ、気にする事はありません。あの状況では仕方なかったんです」

『ちっ、後輩には甘い顔をしやがって……ん?そういえばレナ、お前地竜の核はどうした?』

「あ、それな地中深くに沈めておきました。誰かに見つかるとまずいかと思って……」



ここでレナは地竜の核を未だに埋めていたままだという事を思い出す。位置的には転移台の近くの地中に埋めたのだが、まだ獣人兵に気付かれている様子はない。


イルミナは目を閉じて魔力感知を発動させると、彼女の感じ取れる範囲から離れているにも関わらず、地竜の核が放つ魔力の波動を感じ取った。



「これは……凄い魔力ですね。これだけの魔力が傍にあれば魔術師ならば気付きそうですが……イレイナはどうやら魔力感知は習得していないようですね」

「ほう、そうなのか。それは良かったな、地竜の核が奴等に気付かれる事はないか」

『はっ、魔力感知も出来ないとなるとイレイナというのも大したことはないな。レナの方が強いんじゃないのか?』

「別に魔力感知が出来ないからと言って魔術師として劣っているわけではありません。それに今のレナは怪我も治っていないのですから、無茶な真似はさせません」



現在のレナは左腕の籠手を破壊された時に腕が折れてしまい、一応は南里の薬師に治療を受けたが、完治には至っていない。今現在は薬草の粉末を刷り込み、痛み止めの効果がある特別な植物の蔓の包帯を巻きつけている。日常生活は問題はないが、戦闘となると左腕が扱えないのは不利だった。


籠手に関しては残念ながら回収出来ずに引き返してしまい、仮に回収していてもあれほど砕かれたら修復は難しいと考えれた。まさかイレイナもアダマンタイト製の剣を所持しているなど思いもよらず、レナは悔しく思う。



(イレイナか……もしもイレイナと戦う事になったら、その時は俺が……)



イレイナに対抗できるのは彼女と同じ属性に付与魔法を扱える自分自身だと考え、レナは船の様子を伺う。しかし、結局はこの日の番は兵士達が動く様子はなく、完全に夜が明ける前にレナ達は南里へ引き返す事にした――






――翌日の朝、レナ達は目を覚ますと族長の元へ赴き、これからの事を話し合う。現在の南里には西里のエルフと北里の魔人も含めて島に暮らす殆どの勢力が集まっていた。そして魔人たちの調査の元、東里のエルフの集落にも獣人兵の姿があったという。



「昨日、コボルト共が東里の集落を見てきたが、そこにも獣人兵がいたらしい。だが、コボルトの奴等によると何故か集落に近付こうとすると嫌な気分になって近寄れなかったとかほざいてやがった」

「嫌な気分?」

「恐らくですが……魔除けの石と呼ばれる魔道具を敵は所持してるようですね。貴重品で滅多に手に入る代物ではありませんが、魔物が嫌う魔力の波動を放ち、近づけさせないようにする魔石です」

「おいおい、そんなもんまであるのか!?じゃあ、コボルト共が近づけなかったのはその魔除けの石とかいう奴のせいか……」

「といっても、魔除けの石の効果はせいぜい魔物に嫌悪感を与える程度で絶対的な効果はありません。実際に理性を失った魔物には効きませんし、牙竜などの竜種には通用する代物ではありません」

「ふむ、しかし獣人兵はどうして東里に兵士を残したのだ?東里の連中を全滅させたのならば兵士を残す理由もないだろう」

「……もしや、まだ生き残りがいるのでは?情報提供のために監禁しているか、あるいは東里のエルフ達を従えさせるために人質に取っているのでは?」



アルフの言葉に全員が驚愕の表情を浮かべ、それが事実であるのならば東里にはモルドに従わなかった生き残りが残っている可能性もある。もしも東里に生き残りがいるのであれば見捨てる事は出来なかった。



「ブナンよ、すぐに戦士達を連れて東里に向かうのだ。もしも生き残りがいた場合、なんとしても連れて帰る必要がある。魔人殿、いやミノ殿達にも強力してもらえるか?」

「おう、いいぜ!!こっちも暴れたくてうずうずしてたんだ!!」

「それなら、俺も行きます」

「レナ!?貴方は……」

「もう俺の正体は相手に知られてるんです。なら、もう姿を隠す必要はありませんよ。それに東里の人たちにも聞きたい事がありますし……」



レナも同行する事にイルミナは咄嗟に反対しそうになったが、レナとしてもこのまま何もせずに待機する方が我慢ならなかった。

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