第786話 火竜の暴走

「このっ……いい加減にしろ!!」

「それは……こっちの台詞だ!!」



互いに魔力を流し込み、膠着状態に陥ったレナとイレイナはお互いに怒鳴る事しか出来ない。しかし、ここで左腕を負傷しているレナは片手のみで付与魔法を発動する事が出来ず、徐々に両手を使用して魔力を送り込むイレイナに押されていく。



(まずい、このままだと押し負ける……それなら!!)



船の制御を奪われる前にレナはイレイナに視線を向けると、彼女の事は気にはなるが今はこの状況を脱出する必要があり、意識を集中させる。その結果、甲板の残骸を振り払ってスケボが出現すると、イレイナの方へと向かう。



「喰らえっ!!」

「ぐあっ!?」



イレイナは背中にスケボが衝突した事で転んでしまい、その隙を逃さずにイレイナが手を離した瞬間、レナは一気に付与魔法を発動させて船の制御を奪う。


付与魔法の力によって船全体に魔力が流れ込むと、レナは外の光景は見えないが、とりあえずは横転しそうな船を立て直して浮上させる。一度付与魔法を発動すれば手を離しても問題はないため、改めてレナはイレイナと向かい合う。



「く、くそっ……お前だけは絶対に許さないからな!!」

「うおおっ!!」



スケボを蹴り飛ばして立ち上がったイレイナは剣を構えると、レナはその剣に向けて闘拳を伸ばし、刃を掴み取る。そのレナの行動にイレイナは驚くが、レナは武器を手にした状態から闘拳の金具を取り外す。



「吹き飛べっ!!」

「何をっ……うわぁっ!?」



レナは得意とする飛来拳を発動させ、闘拳が彼の手元を離れると武器を掴んだ状態のままイレイナを後方へと押し飛ばす。予想外の攻撃にイレイナは抵抗する暇もなく吹き飛び、甲板の残骸に突っ込む。


イレイナが動けない隙にレナはスケボへと乗り込み、闘拳を引き寄せて回収を行う。ここまで騒ぎを起こせば目的は十分に達成したと判断し、そのまま外へ脱出しようとした時、ここで予想外の事態へと陥る。




――グガァアアアッ!!




何処からか火竜の幼体の鳴き声が響くと、船内の床から火球が飛び出し、運悪くスケボに乗り込んでいたレナの足元に衝突してしまう。スケボのお陰で直撃は免れたが、予想外の攻撃にレナは吹き飛ばされてしまう。



「うわぁっ!?」

「し、しまった……火竜、止めろっ!?」

「グゥウッ……グガァッ!!」



火球が出現した床から火竜は姿を現すと、その光景を見たイレイナは焦りの声を上げて火竜を落ち着かせようとする。しかし、彼女の言葉など聞こえていないのかそれとも理解できないのか、火竜は制止の言葉を無視して口元から火球を放つ。


幼体とはいえ、竜種の吐息は恐ろしい威力を誇り、再び放たれた火球は壁を破壊して外への出入口を作り出す。火竜はその出入口から外へと抜け出し、空を飛ぼうとする。しかし、火竜の背中には鎖が絡まり、火竜は背中を広げる事も出来ずに地上に落下する。



「ギャウッ!?」

「か、かりゅうっ……落ち着け、落ち着くんだぁっ……!!」

「カイヌ!!早く火竜を止めろ、手遅れになる前に!!」



船上から先ほどレナに吹き飛ばされたはずの巨人族の男が大声を上げ、その声を耳にしたイレイナはすぐに火竜を落ち着かせるように指示を出す。しかし、上空を飛ぶ飛行船から地上に降りた火竜には命令が届かないのか、火竜は地上に存在する兵士達に気付くと、咆哮を放つ。



「ガァアアアアッ!!」

「ひいいっ!?か、火竜が逃げ出したぞっ!!」

「カイヌは何をしている!!」

「や、やばい!!逃げろっ!!」



火竜は地上の獣人兵に対して襲い掛かろうと駆け出し、その様子を見た獣人兵は悲鳴を上げて逃げ惑う。その様子を見たガロウとミノは顔を見合わせ、お互いに相手の顔を殴りつけたせいか顔がパンパンに腫れ上がっていた。



「く、くひょっ……こんにゃときに……!!」

「ブフゥッ……!!」



ガロウは口元を切って上手く喋れず、ミノの方も鼻血をどくどくと噴き出す。このまま戦い続けても火竜に狙われるのは明白であり、仕方なくガロウは兵士達に命じる。



「おちふけっ!!ひゃやく、ふへをおろへ!!」

「しょ、将軍!?何を言っておられるか分からないのですか!!」

「いいから、ふへをおろへっ!!」



兵士達はガロウの言葉に戸惑うが、彼が船を指差している事に気付き、どうやら船を下ろせと言われている事をは理解した。


しかし、地上に存在する兵士達では船を下ろす事など到底出来ず、そもそも彼等はどうして船が浮かんでいるのかも知らない。この船を操作しているのは現在はイレイナではなく、レナである事も彼等は知らないのだ。



「くひょっ、あのガキ……なにをかんがえふぇる!!」



ガロウは忌々し気な表情を浮かべて上空を浮かぶ船を睨みつけるが、この時に船から何かが飛び出すのを彼は視界に捉え、その何かが自分の元に接近している事に気付く。

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