第787話 退散

「邪魔ぁっ!!」

「ひでぶぅっ!?」

『しょ、将軍っ!?』



スケボに乗り込んで船から脱出に成功したレナはガロウの顔面に金属板を叩き込むと、派手に吹き飛ばす。その光景を見た兵士達は呆気に取られるが、その隙にレナは西里の戦士と魔人たちに退却を指示する。



「全員、撤退!!殿は俺が務めるから早く逃げて!!」

「えっ!?あ、はい!!」

「勇者様の指示に従えっ!!」

「撤退だぁっ!!」

「ブフゥッ……!!(←踏ん張って鼻血を噴き出す)」



レナの言葉に即座に戦士達は従い、ミノもレナの言葉に従って動き出す。一方で獣人兵はガロウを吹き飛ばされ、更には火竜の幼体が暴れまわるせいでどれから対処すれば分からず、混乱状態へと陥る。



「ま、待て!!くそ、逃がすかっ!!」

「馬鹿野郎、そんな奴等は放っておけ!!それよりも火竜だ、火竜を何とかしろ!!」

「そ、そういわれても……どうすりゃいいんだよ!?」

「イレイナ様は何をしてるんだ!!カイヌはどこにいる!?」

「ガアアアッ!!」



地上の兵士達は大混乱へと陥り、指示を出すはずのガロウは完全にのびてしまい、興奮した火竜は落ち着く様子がない。その一方で西里の戦士と魔人は避難を始め、レナは転移台へと視線を向けた。


転移台には先ほどまで存在したはずのルイとカツの姿はなく、転移は成功したのかとレナが考えた時、ここで上空の船の方で異変が発生した。レナの付与魔法によって浮上していた船だが、その船上からカイヌを抱えたイレイナが飛び出してきたのだ。



「逃がすかぁっ!!」

「うおおおっ!?」

「嘘っ!?」



驚くべき事にイレイナはカイヌの巨体を掲げ、手ごろな大きさの板に付与魔法を施して降下してきた。その様子を見てレナは驚くが、すぐに彼女に対して魔銃を構えると容赦なく発砲を行う。



「しつこい!!」

「うわっ!?」

「おわぁっ!?」

「ギャインッ!?」



魔銃が発射した弾丸はイレイナが足場にしていた板に衝突し、破壊に成功する。レナのスケボと違って頑丈な金属ではなく、しかも足元を固定する金具もなければ破壊されれば体勢を保つ事も出来ず、簡単に壊れてしまう。


効果の際中に足元の板を破壊されたイレイナは担いでいたカイヌを下敷きにして地上へと落下し、偶然にも火竜の背中の上に二人は落ちてしまう。結果的には火竜を抑える事に成功したが、その間にレナは退散する。



「これに懲りたらもう国へ帰って下さい!!」

「か、勝手な事を……逃がすか!!」

「させるか!!」



立ち上がってレナの元に駆けつけようとしたイレイナだが、その前にレナは両手を地面に置いて付与魔法を発動させると、広範囲に地面に魔力を流し込む。その結果、地面が隆起して土砂が盛り上がると、獣人兵の前に巨大な「土壁」が立ちふさがる。



「な、なんだぁっ!?」

「何が起きたんだ!?」

「地面が盛り上がったぞ!?」

「くそっ……!!」



土壁によって阻まれた獣人兵は追跡も行えず、イレイナは悔し気な表情を浮かべる。彼女にはレナのように特別な道具は持ち合わせておらず、追いかける術はなかった――






――それからしばらく時間が経過すると、疲れた表情のレナはミノに肩を貸しながらも島の南に存在する樹海の出入口へと辿り着く。そこには既に西里から避難したエルフ達が存在し、彼等はレナ達が帰還する姿を見て非常に喜ぶ。



「勇者様!!ご無事でしたか!!」

「勇者様が戻ってこられたぞ!!」

「ギギィッ!!レナ、ミノ、カエッテキタ!!」

「ウォオオンッ!!」



レナとミノの元にエルフと魔人たちが駆けつけ、彼等は二人が無事に戻ってきた事を喜び、すぐに南里のエルフが駆けつけてきた。彼等は薬草の粉末と植物の蔓を切り分けて作り出した包帯を利用し、すぐに治療を行う。



「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、大分楽になったぜ……ありがとな、エルフの兄ちゃん」

「い、いや……お気になさらずに」

「ギギィッ……ミノ、ケガガヒドイ」

「ウォンッ……」



ミノは薬剤師の称号を持つエルフから治療を施して貰い、身体中に包帯を巻いてもらう。ガロウとの戦闘で彼も予想以上に苦戦したらしく、身体中が包帯だらけになる。残念ながらこの島では回復薬を製造する技術はなく、薬草を粉末状に磨り潰し、傷口に塗り込むという原始的な治療法しかない。


残念ながら密林に自生する薬草の類は回復薬の素材としては不十分らしく、生憎とこの島では回復薬を作り出す事は出来ない。そのせいで原始的な治療法しかできないらしく、迎えに来てくれた南里の族長は申し訳なさそうに答える。



「勇者様、誠に申し訳ございません。我々の里ではこれ以上の治療は難しく……」

「いえ、いいんですよ。それよりも他の皆は……」

『おおっ、レノ!!お前等もう戻ってたのか!!』

「どうやら行き違いだったようだな」

「食料を調達してきました。これで今晩はしのげるでしょう」



レナは他の者達の事を尋ねると、後ろから声を掛けられて振り返ると、そこにはボアを抱えたダンゾウとカツ、そして一角兎などの小型な魔物を捕まえたイルミナの姿が存在した。どうやら食料を調達してきたらしく、彼等の姿を見てレナは無事だったことを安心する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る