第782話 船内の様子

(……よし、上手く回り込めたな)



スケボを利用してレナは船の側面へと移動すると、船上を確認して気づかれないように忍び込む。甲板には木箱が積まれているのを確認すると、並べられている木箱に身を隠し、様子を伺う。


船に乗っていた兵士達は地上で攻撃を仕掛けてきたエルフの戦士とミノに対応のため、殆どの兵士が外へと降りていた。甲板に存在するのは数名の兵士と、グランたちが話していたと思われる巨人族の男らしき姿を発見した。



「あ、あのうっ……」

「うわ、驚かせるな!!こっちは忙しいんだ、あっちに行け!!」

「邪魔だ、そんなところに立ち尽くすな!!」

「す、すいませ……」



巨人族の男の手には大きなモップが握りしめられ、どうやら彼はこんな時間帯だというのに休まずに甲板の掃除を行っていたらしい。しかも船上の兵士達からぞんざいに扱われていた。



(そういえばグランさんの話だと、奴隷みたいに扱われていると言ってたけど……それにしても随分と酷い格好だな。かなり痩せ細っているし……)



ダンゾウと比べると巨人族の男は痩せ細った体つきである事にレナは気付き、格好も随分と酷かった。更に暴力を振るわれているのか身体のあちこちに痣を負っていた。その様子を見てレナは不憫に思うが、すぐに彼がけしかけた火竜が西里を壊滅させた事を思い出す。



(駄目だ、同情するな。この人達のせいでエルフは酷い目にあったんだ……今のところ、火竜は見当たらないな)



レノは火竜の姿を念のために探すが、甲板には火竜の姿は見えず、船内に移動させているのかと思ったレノは「魔力感知」を発動させる。火竜が放つ魔力を感じ取り、居場所を探る。


魔力感知の結果、火竜と思われる強力な魔力が船内から感じ取り、やはり船の中に火竜がいる事を確認する。しかし、ここでレナは火竜とは異なり、強力な魔力を感じ取った。



(この魔力……魔術師がいるのか?)



船内には火竜とは別の強い魔力を感知したレナは驚き、魔力の強さから察するにルイやイルミナよりも強い魔力が感じられた。魔力の強さが魔術師としての腕前とは限らないが、少なくともヒトノ国の中でも指折りの実力者であるルイとイルミナを上回る魔力の持ち主が船内に存在する事にレナは驚く。



(有り得ない……それにこの魔力、何処かで覚えがあるような……)



下手をしたらマドウにも迫る魔力を放つ存在が船内にいるという事実にレナは動揺を隠せないが、今は火竜を暴れさせ、兵士達の注意を引いて転移台からの脱出を試みるのが先だった。




――ルイの考えた作戦はまずはレナを船の中に潜入させるため、この島の住民である西里のエルフと魔人の力を借りる。ルイは彼等に補助魔法を施して身体能力や魔法の強化を行い、彼女の魔法で一時期的に強くなった彼等に獣人兵に攻撃を仕掛けさせる。


この際にレナ達は表立って彼等の援護は出来ず、あくまでも攻撃を仕掛けてきたのはこの島に暮らす彼等の仕業だと思い込ませる。当然だが攻撃を仕掛けられれば獣人兵も黙ってはおらず、必ず船に乗っているはずのガロウが出向くとルイは予想した。


作戦通りに船内に休んでいた兵士達を誘き寄せる事に成功し、ガロウも引き寄せる事には成功した。気がかりがあるとすれば東里のエルフ達の姿が見えない事だったが、今回の作戦は火竜を暴れさせ、船に乗っている者達の注意を引く事である。


転移台さえ使用できればレナ達は王都へ引きかえし、状況を報告する事が出来る。連絡役は当然だがスケボを使いこなせるレナしか有り得ず、獣人兵が転移台から注意を逸らしている隙にレナが王都へ引きかえす予定だった。




(ここまでは作戦通りだけど……その前に確かめないといけない。この船が本当に飛行船なのかを)



レナは緊張した面持ちで甲板に掌を合わせると、意識を集中させて付与魔法を発動させる。船全体に魔力を流し込み、船に魔石が搭載されていないのかを調べた。


もしも仮にこの船が飛行船で空から飛んできた場合、どのような原理で空を移動してきたのかを調べる必要がある。もしもヒトノ国の飛行船の時の様に地属性の付与魔法で浮かばせていた場合、この船内にはレナと同じ地属性の付与魔法が扱える存在がいるのは間違いない。



(この感じは……!?)



船全体に魔力を流し込む覚悟でレナは付与魔法を発動させると、彼はここで船の各所に魔石が設置されている事を把握する。信じがたい事に獣人国の軍隊が乗ってきた船には確かに複数の地属性の魔石が搭載されていた。



(そんな、じゃあ本当にこの船に俺以外の付与魔術師がいるのか!?)



魔石が船に搭載されているという事実にレナは動揺を隠せず、ワドルフとマドウが数十年の時を費やして作り上げた飛行船、それと同じぐらいの大きさの飛行船を獣人国の軍隊が所有していたという事実、更にはそれを操る存在がこの船にいる事にレナは唖然とした。

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