第783話 同じ力を持つ存在

(信じられない、本当に俺と同じ付与魔法を使える奴がこの船の中にいるのか……っ!?な、何だ!?)



レナは船に魔力を送り込む途中、唐突に強い魔力を感じ取り、船に施す付与魔法に異変が生じる。何者かがレナの送り込む魔力を押し返すような感覚に陥り、最初は何が起きたのか分からなかったが、すぐにレナは異変の正体を知る。



(まさか……別の奴が付与魔法を発動させている!?)



自分以外の何者かが船に付与魔法を発動させ、レナが送り込む魔力を別の魔力で押し返している事を察する。二つの魔力が同時に船に流し込まれ、お互いの魔力が反発して徐々に船全体に影響が及び始めた。


湖に波紋が生まれ、船は二つの魔力の影響で軋み始め、徐々に震え始めていく。このままではまずいと判断したレナは手を離すと、途端に船全体に紅色の魔力が流れ込む。



(この色合いは、まさか本当に!?)



船に地属性の魔力が覆われる光景を確認すると、咄嗟にレナはその場を離れようとした。しかし、突如として船が動き始め、ゆっくりと浮上していく。その様子は地上の兵士達も確認し、ミノと殴り合っていたガロウも驚きの声を上げる。



「なっ!?まさか……」

「っ……ブモォッ!!」

「ぐふぅっ!?」

「しょ、将軍!?」



一瞬の隙を突いてガロウに大してミノは顔面に頭突きを食らわせると、ガロウは鼻血を噴き出して倒れ込む。その様子を見ていた兵士達は慌てふためくが、ミノの方も浮き始めた船を見て動揺する。


船がゆっくりと浮上した光景は湖の近くに伏せていたルイとカツも確認し、彼女達は万が一の場合に備えて近くに待機していた。イルミナは魔人の力を借りて南里へ避難に向かう西里のエルフ達の事を任せ、ダンゾウも彼等に同行させた。



『お、おいおい……何が起きてんだ!?本当に船が浮いたぞ!?』

「あの色合い、まさかレナ君が……いや、違う。この魔力の感じは……」



ルイはかつて飛行船に残った事があるため、最初はレナが付与魔法で飛行船を浮かばせているのかと思った。しかし、魔力感知を発動させた彼女は船を浮かばせている魔力の正体がレナの物ではない事に気づき、別人が船を浮かばせている事に気付く。


最悪の予想が的中したらしく、現在の船はレナ以外の「付与魔術師」が浮かばせている事は間違いなかった。しかもレナと同様に地属性の魔法を扱えるらしく、その人物のせいで船は浮き上がると、やがて地上へ向けて接近する。



「ま、まずい!?船が……」

「逃げろぉっ!!」

「ひいいっ!?」



味方がいるにもかかわらずに陸地に移動してきた巨大船は突っ込み、派手な土煙を舞い上げながらも陸地へと降り立つ。その様子を見ていた西里の戦士もミノも危険を察知し、引き返す事にした。



「退け!!退け!!」

「撤退だ!!」

「下がれ、下がるんだ!!」



地上に存在した者達は敵味方関係なく混乱に陥り、船から離れ始める。その様子を見ていたルイは何が起きているのか分からなかったが、ここで転移台の見張りの兵士達も姿を消したのを確認し、今ならば転移台を使用する事が出来るのを知る。



(どうする!?予定ではレナ君が転移するはずだが、今が好機だ……僕が行くか、それともカツを行かせるべきか!?)



転移台を使用する絶好の好機にルイは悩み、当初の予定通りならばレナが船から脱出して転移台を使用する手はずだった。だが、彼に予期せぬ事態が起きたのは間違いなく、そもそもレナが無事なのかも分からない。


ルイは悩んだ末、彼女はカツと共に転移台へ向かう事にした。レナが無事なのか分からない以上、二人のどちらかが転移台を使用する必要があった。



「カツ、僕達も行くぞ!!」

「おい!?行くって、何処に!?」

「転移台だ!!」



カツはルイの言葉に驚き、作戦を無視して転移台に向かう彼女に慌てるが後に続く。その頃、船上では兵士達が着地の衝撃で倒れてしまい、その中には巨人族の男やレナも含まれていた。



「いててっ……くそ、飛ぶ暇もなかった」

「ううっ……お、お前は……!?」



レナは船が地上に突っ込んだ際、偶然にも巨人族の男の目の前に転がってしまう。巨人族の男はレナに視線を向けて驚いた表情を浮かべる。



(くそ、姿を見られた……どうすればいい!?)



ルイからはくれぐれも正体を気づかれないように注意されていたが、巨人族の男に姿を見られたレナは反射的に魔銃を引き抜こうとした時、思いもよらぬ言葉を掛けられた。



「もしかして、イレイナ様か?どうしたんだ、その恰好……?」

「えっ……?」



巨人族の男は呆然とした表情を浮かべ、そんな彼の言葉にレナの方が逆に戸惑う。どうやら巨人族の男は誰かとレナを勘違いしているらしく、彼はレナの格好を見て首をかしげる。


イレイナという名前はレナも聞き覚えはないが、巨人族の男が勘違いしている間にレナは逃げ出すべきか考え、ここで転移台の事を思い出す。船の上から様子を伺うと、転移台の方角にカツとルイが向かっている事に気付く。

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