第774話 王都への避難
――大勢の怪我人、更には住む場所を失った東里のエルフ達が頼りに出来るのは南里のエルフ達しか存在しなかった。一時期は対立していたとはいえ、同盟が為した以上は彼等に救援を求めるのが妥当だと判断され、里に暮らしていたエルフ達は南里に向けて出発する。
レナ達も彼等の事を放置は出来ず、共に同行する。しかし、多くの怪我人を抱えているので移動速度は速くはなく、今日中に南里に辿り着くのは不可能だと判断され、荒野にて野営を行う。
「団長……これからどうするつもりですか?」
「どうするつもり、とは?」
「もう時間はありません。今夜中に私達は王都へ引きかえさなければ王都から救援部隊が送り込まれます。その場合、彼等の身に危険が迫りますよ」
『おいおい、イルミナ……お前、まさかこの里の奴等を見捨てるつもりか?』
イルミナの言葉にカツは腕を組み、彼はこのまま西里のエルフ達を見捨てるつもりなどなかった。最初の頃はダンゾウが捉えられていた事で敵対心を向けていたが、今の西里のエルフ達の様子を見てカツは見捨てる事など出来なかった。
無論、イルミナも別に彼等を見捨てようと提案しているわけではなく、あくまでも現在の状況を王都の人間達に知らせるべきだと語る。
「私が言いたいのはこの島の状況を誰かが王都に報告へ向かうべきだと言っているのです。このままだと私達のために派遣される救援部隊が別々に転移します。もしも北の雪山にでも転移すればどうなると思うのですか?防寒具も無しにあの場所に飛ばされれば凍死しますよ」
「確かにイルミナの意見は一理あるな。僕達の中の誰かが王都へ戻り、現在の状況を報告する必要があるな」
「なあ……それなら彼等も一緒に転移はできないのか?」
ダンゾウは元の世界に戻る際、この場に存在するエルフ達を連れ帰る事を提案する。流石に手持ちの転移石では全員を元へ戻す事は出来ないだろうが、それでも怪我人を優先して王都へ引きかえす事は出来る。
「私もダンゾウの言う通りに怪我人だけでも連れ帰るべきかと……この島に暮らしている者を連れていけば証人にもなります。私達だけで帰還し、報告する場合はあらぬ疑いが掛けられるかと……」
「あらぬ疑い、ですか?」
「要するに私達が大迷宮を独り占めするのではないかと疑われる事だ。それだけはなんとしても避けねばならないね」
イルミナの言葉にレナは疑問を抱くが、ルイ曰く王都の冒険者達は新しく出現した転移魔法陣の行き先が大迷宮だと勘違いしている。しかし、実際の行き先はこちらの世界にある大陸から大きく離れた島だと報告しても素直に信じられるとは思えない。
しかし、本来は大迷宮には人は住めないため、この島に暮らしているエルフたちを連れ帰れば彼等を通して話を信じてもらえるだろう。また、怪我人も安全な王都で治療を受けられる。
「イルミナの言う通り、確かにここで手をこまねいていても仕方がない。よし、行き先を変更して湖へと向かおう」
『しかし、大丈夫か?ここの連中に何て説明する気だ?』
「ありのまま伝えるべきだろう。ここに残るよりは王都の方がまだ安全だ」
ルイは西里のエルフ達に自分達の提案を聞いて貰い、それに従うかどうかを彼等の判断に任せる事にした。最も現在の状況ではルイ達の提案を反対する者などおらず、結局は彼女達の意見は受け入れられた――
――エルフ達に話を通すと、レナ達は所持していた転移石を取り出す。今回は全員が転移石を所持して出発したのだが、残念ながらカツとダンゾウは転移石を失っていた。
『悪いな、東の草原であの気色悪い魔物に飲み込まれた時、転移石も無くしちまったみたいだ』
「すまん、俺の持っていた転移石は牢に入れられるときに取られてしまった」
「もうしわけございません、ダンゾウ様の所有物は岩山が破壊された時に失ってしまいました……」
「仕方がないさ、気に病む事はない……となると、僕達の転移石は3つか」
「たったこれだけじゃ、皆を転移するのは無理そうですね……」
「仕方ありません、転移石は貴重なのですから余分に用意はしていませんでしたし……」
レナ、ルイ、イルミナの所持していた転移石は無事であったが、残念ながら転移台の規模を考えても転移できる人数は一度にせいぜい7~8人程度だった。どうにか魔法陣の上に無理して詰めれば10人ぐらいならば転移できる可能性もあるが、それでも王都へ引きかえせる人数は30人程度である。
「あの……どうしても湖に向かうのですか?あの転移台というのであれば我等が昔暮らしていた集落の近くにも見かけましたが……」
話し合いに参加していたエルフの一人が西里と東里の中央にある湖ではなく、荒野の西側に存在する転移台の事を話す。しかし、その問いに対してルイは首を振った。
「ここからだと湖の転移台の方が近い、それに僕達の調査だと恐らくはこの島から大陸へ移動できるのはあの転移台だけなんだ」
『だが、気になる点があるとすれば獣人国の奴等だな。もしもあいつらが湖に陣取っていたらどうする?』
カツの言葉にレナ達は腕を組み、確かにその可能性も十分に有り得た。どうやら既に獣人国の部隊と東里のエルフたちは「来訪者」の存在を知っていた。
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