第773話 西里の崩壊
「かりゅ、これを……くえっ」
「グガァッ……」
「な、何を食べさせているのですか!?」
「いいからさっさと行くぞ!!おい、デカブツ!!そいつをほどほどに暴れさせたら元に戻せよっ!!」
「あいっ……」
優勢に立っていたはずの獣人族の部隊は急遽撤退を開始し、同行していた東里のエルフ達は戸惑う。モルドの方も火竜の身に何が起きているのか不明だが、ここでグランは巨人族の男が火竜の口に押し込んだ物の正体を見抜く。
(あれは……火属性の魔石、か?)
理由は不明だが巨人族の男は火竜の口元に火属性の魔石を押し込んでおり、無理やりに飲ませようとしているのが分かった。その光景を見てグランは彼が何をしようとしているのか分からなかったが、直後に魔石を飲み込んだ火竜に異変が訪れた。
「ガァッ……アアアアアッ!!」
「な、何だっ!?」
「何が起きている!?」
火竜は火属性の魔石を飲み込んだ途端、全身の鱗が発熱した状態で口元を大きく開く。その様子を見て西里の戦士達は嫌な予感を覚えるが、次の瞬間に火竜の口元から炎の塊が発射された。
過去にヒトノ国の王都に出現した火竜は火炎放射の如き吐息を放ち、王都を火の海へと変えた。しかし、子供の火竜にはまだ炎の吐息を吐き出す力は備わっていない。しかし、巨人族の男が与えた火属性の魔石によって火竜は体内に魔力を取り込み、身体に溜まっていた老廃物を発火させて口元から放つ。
――アガァアアアアッ……!!
放たれた「炎塊」が地面に衝突した瞬間、凄まじい爆発を引き起こす。しかも1発だけには留まらず、火竜は無茶苦茶に炎塊を放つ。その結果、東里の族長の住居として利用していた岩山も何発もの炎塊を受けて木っ端みじんに吹き飛ぶ。
結局は火竜が落ち着いたのは数分後の出来事であり、その時には周囲は荒れ果て、エルフ達が住居として利用していた岩山は見るも無残な形に変貌していた――
――治療中のグランとアランから全ての話を聞かされたレナ達は黙り込み、族長のアルフは愕然とした表情で膝を崩す。まさか東里のエルフ達が裏切り、よりによもって大陸から訪れた国の軍隊と協力して襲い掛かったという事実に絶望する。
「何という事を……どうして、こうなったのだ……」
「……族長、この度の戦闘で我等の住居の殆どは失いました。もう、この地に生き続けるのは難しいでしょう」
「まさか、火竜を引き連れているとは……しかも子供だと?獣人国はどうやって火竜を確保したんだ?」
『おい、そんな事よりもダンゾウを見つけるのが先だろうが!!お前等も手伝えよっ!!』
ルイは獣人国の軍隊が火竜を引き連れていた事に動揺する中、カツはレナと共に瓦礫を漁って地下へと通じる階段を探す。岩山は吹き飛ばされてしまったが、地下に存在するダンゾウは生き残っている可能性があり、彼は必死にダンゾウを探す。
『おい、ダンゾウ!!くそっ、何処にいるんだ!!』
「こうなったら、ここら一帯を吹き飛ばすしか……」
「……うおおおっ!!」
レナが付与魔法で周辺の瓦礫を一気に吹き飛ばそうかと考えた時、巨大な瓦礫が突如として下から浮き上がると、埃まみれのダンゾウが姿を現す。
彼は地下に繋がる階段の出入口を塞いでいた巨岩を押し飛ばし、数名の子供のエルフと共に姿を現す。それを見たカツは歓喜の声を上げ、レナ達も彼の元へ駆けつけた。
『ダンゾウ!!へへっ、やっぱり生きてやがったか!!』
「ふうっ……ようやく出てこれた」
「た、助かった……」
「あ、ありがとうございます……貴方のお陰でうちの子が助かりました」
「ううっ……怖かったようっ」
どうやら地下に避難していたエルフ達と共に行動していたらしく、ダンゾウのお陰で彼等は無事に生き延びれたらしい。カツはダンゾウが生きていた事に安堵し、西里のエルフ達も生き残りがまだいた事に喜ぶ。
「全く、急に振動が走ったかと思えば天井が崩れそうになってびっくりしたぞ。幸いにも俺の檻の中は無事だったが、いったい何が起きたんだ?」
「カツ、悪いがダンゾウに説明しておいてくれ……僕達は少し話し合うよ」
『お、おう……といっても、何処から説明すればいいんだ?』
ルイの言葉にカツはダンゾウに何処から話すべきか悩み、とりあえずは南里との交渉は成功した話から行う。その間にルイはイルミナとレナを連れ、族長と負傷したグランとアランの元に訪れる。
「被害の状況を詳しく教えて貰いますか?」
「怪我人が多数……火竜に襲われて殺された者は14名、破壊された住居の数は4つ、その際に瓦礫に押し潰されて死亡した者は……最低でも30名はいるだろう」
「この里には100名のエルフが暮らしておりました。しかし、その大半は死んでしまった……生き残った者の中には無傷の者は儂一人のみ、重傷者もすぐに治療しなければ危険な状態じゃ」
「す、すぐに治療を……」
「彼等の住居が破壊されたんだ。治療器具も一緒に壊れてしまっただろう。すぐに救援を求める必要があるな……南里のエルフの力を借りよう」
「そうですな、しかし……もしも南里の方にも獣人族の軍隊が送り込まれていた場合は……」
族長の言葉にルイ達は黙り込み、誰も彼の言葉は否定できなかった。しかし、このままこの場に残っても状況は好転せず、同盟を結んだばかりではあるが南里のエルフの元に向かうしかなかった――
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