第775話 湖の転移台へ
「既に我々の存在は獣人国の軍隊にも知られている。そして彼等も東里のエルフを通じて勇者の伝承を知っているだろう。ならば島の中央の湖に存在する転移台から外の世界へ引き返す方法を知っている可能性もあるか……」
「その事に関してですが……恐らく、モルドの奴は知っているかもしれませぬ。各里の代々の族長は世襲制なのですが、族長の座を継ぐ者は必ずや勇者の伝承を聞かされて育ちます。恐らく、来訪者の事もモルドならば知っているでしょう」
『となると、湖の転移台の秘密も知られている可能性があるわけか。しかし、あそこで待ち伏せされると厄介だな』
アルフの言葉にレナ達は増々考え込み、恐らくではあるが湖に設置されている転移台以外の場所では転移石を使用しても王都へ引きかえす事は出来ないと考えられた。しかし、湖の転移台の存在を獣人国の軍隊に知られていた場合、当然だが来訪者であるレナ達を警戒して罠を仕掛けている可能性がある。
既に湖の転移台は占拠されている可能性もあり、その場合だとレナ達は獣人国の軍隊との戦闘は避けられない。ここで問題なのがレナ達はヒトノ国の人間であり、もしも獣人国の軍隊と争う事になれば面倒な事態に陥る可能性があった。
「あの、この状況で獣人国の軍隊と戦うのはまずい事ですか?」
「まずいかどうかと言われれば……まあ、まずいだろうね。ヒトノ国と獣人国は敵対しているわけではないが、だからといって友好国とも言い難い。ヒトノ国の出身である僕達が獣人国の軍隊と一戦を交えるのはまずいだろう」
「そうですね、出来る事ならば交戦は避けたい所ですが……」
『おいおい、それはないだろ。困っている奴等を助けるのが冒険者の役目だろうが!!俺は相手が誰であろうと邪魔をするなばぶっ倒すぞ!!』
「俺も同じ意見だ……相手が誰であろうと、困った人間は決して見捨てない。それが金色の隼の掟じゃなかったのか?」
「俺も……二人と同じです。この人達を見捨てたくありません」
「み、皆様……ありがとうございます」
カツとダンゾウとレナの3人は仮に獣人国の軍隊と戦う事になろうとも、西里のエルフ達を救うと誓う。そんな彼等の言葉にアルフは感謝するが、ルイはため息を吐いて訂正する。
「こらこら、勘違いするな。僕だって彼等を助けてやりたいとは思っているさ。だが、相手が国となると迂闊な行動は出来ない。なにしろ僕達のせいで戦争が勃発しかねない事態に陥ったらどうするつもりだ?その時は大勢の人間が巻き込まれてしまうんだぞ?」
「む、それは確かに困るな……」
「でも、この人達を見捨てるなんて……」
「落ち着きなさい、まずは先に湖の様子を確認し、状況を把握してからです。もしも獣人国の軍隊の姿が見えない場合、転移魔法陣で王都へ引き返せれば何らかの手は打てます」
イルミナの言葉にレナ達は納得し、まずは湖の様子を確認に向かうのが最優先だった。もしも獣人国の部隊が待ち伏せしていなければ問題はなく、早急に怪我人を王都まで転移させれば問題はなかった。すぐに誰が偵察へ向かうべきか話し合いが行われた――
――話し合いの結果、この面子の中では偵察役はレナが最適だと認められた。この場の中で偵察に向いているのはレナだけである。スケボを使用すれば仮に獣人国の部隊に見つかろうとレナ一人ならば十分に逃げ切れられる可能性が高い。
スケボに乗り込んだレナは目立たないように夜の闇に紛れやすいように黒色のマントを身に付け、更に万が一の場合を想定して魔銃に弾丸を装填しておく。緊急時はこれらを使用し、逃走の準備を整えておく。
「レナ君、気を付けてくれ。もしも危険だと判断したらすぐに逃げてくるんだ」
「はい、分かりました」
『俺達も一緒に行ってやりたいが、あんまり大人数だと目立っちまうからな……頑張れよ!!』
「無理だと思ったらすぐに引き返してくださいね」
「魔物に気を付けろ」
「勇者様……どうかお気をつけて」
「はい、行ってきます!!」
用心のためにレナは勇者の盾も装備すると、湖の方角に向けてスケボを利用して移動を行う。あまりに上空に飛び過ぎると空を支配するペガサスやグリフォンに襲われる可能性も考慮し、低空飛行を心掛けて移動を行う。
野営地から湖までの距離はそれほど離れてはおらず、スケボで移動を開始してから10分も経過しないうちにレナは目的地を視界に捉える。ここでレナはイルミナが所有していた双眼鏡を取り出し、様子を伺った。
(……くそ、やっぱり見張られているな。しかも結構な数だ)
残念ながら湖の近くには獣人族の兵士が存在し、彼等は松明を片手に転移台の周囲に集まっていた。しかも湖に浮かんでいる地竜の死骸を引き上げる作業を行い、驚くべき事に湖には驚くべきものが浮かんでいた。
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