第772話 火竜の暴走
「はっ!!てめえみたいな雑魚に俺がやられるかよ!!」
「き、貴様ぁっ!!」
「おっと、させるか!!」
グランが斬られた光景を見て息子のアランは弓を構えるが、それに対してガロウは手斧を振りかざし、彼に向けて放つ。手斧はブーメランのように回転しながらアランの所持していた弓を破壊すると、ガロウの手元へと戻る。
「ぐあっ!?」
「あ、アラン……ぐふっ!?」
「おら、どうした?エルフの戦士といってもこの程度なのか!?」
ガロウはグランの胸元に向けて足を踏み込み、傷口を刺激されたガロウは血反吐を吐く。そのあまりの残酷さに西里の戦士達の表情が引きつり、中にはグランを助け出そうとする者もいたが、火竜に邪魔されてしまう。
「お、おのれ!!戦士長を……ぐあっ!?」
「ガアアッ!!」
「よし、いいぞ火竜!!もっと暴れろ!!こいつらを皆殺しにしちまえっ!!」
「ガロウ将軍、そんな事をすればこいつらが隠している勇者の装備品は手に入りませんが……」
「おっと、そうだったな!!じゃあ、こいつを痛めつけて教えてうか……おい、勇者の装備品はどこにある?」
「だ、誰が貴様等なんぞに……ぐああっ!?」
「ち、父上っ!!」
傷口を踏み込まれたグランは苦痛の声を上げ、それを見たアランは剣を抜いて助けに向かおうとするが、そんな彼に対してモルドは腕を伸ばす。
「おっと、近づかない方がいいですよ。いくら旧友とはいえ、手加減は出来ません」
「ふざけるな!!貴様など、友ではない!!この裏切り者めっ!!」
「おやおや、それは悲しいですね。私は貴方の事を本当の友人のように思っていたのに……では仕方ありません、死んでください!!」
「えっ……ぐあっ!?」
「あ、アラン!?」
モルドは背中に隠していたボーガンを取り出すと、アランに向けて放つ。まさかそんな物を隠していたとは思わず、アランはモルドが放った矢を胸元に受けてしまう。
矢を受けたアランは倒れ込み、苦痛の表情を浮かべて矢を引き抜こうとするが、上手く動けない。どうやら麻痺毒でも仕込まれていたらしく、矢を受けたアランは身体を動かす事も出来なくなった。
「ぐ、あっ……」
「安心してください、子供の頃のよしみで殺しはしません。まあ、情報を吐かなければ拷問させてもらいますが……」
「や、止めろっ……息子に手を出すな!!」
「なら、教えて貰おうか……勇者の装備品はどこにある?答えなければお前も、お前の息子も、お前の部下も全員皆殺しだ!!」
「そ、それは……!!」
ガロウの言葉にグランは苦痛の表情を浮かべ、ゆっくりと口を開く。このまま喋った所でガロウが約束を守る保証はない。しかし、ここで黙っていても殺されてしまう。それならば僅かな可能性であろうとも彼は口を開く。
「ゆ、勇者の盾は……もうない」
「何だと?お前等の所は盾を保管していたのか?」
「そ、そうだ……だが、勇者の盾はもう我々は持っていない。この島に訪れた勇者の子孫に託したのだ」
「何を言って……まさか、この島に来訪者が!?」
「来訪者だと?おい、どういう意味だ?」
グランの言葉にモルドは目を見開き、彼は信じられない表情を浮かべる。一方で事情を知らないガロウはグランの言葉の意味が分からず、この島に自分達以外に大陸から訪れた人間がいるなど彼は想像も出来なかった。
勇者の盾が既に他の者の手に渡っているという事実にもモルドは動揺を隠せず、どのようにガロウに報告するべきかと彼は冷や汗を流す。しかし、ここで思わぬ出来事が発生する。
「グッ……ガアアアッ!!」
「うおっ!?しょ、将軍!!火竜の様子が……」
「ちぃっ!?またかっ……くそっ、おいデカブツ!!何とかしろ!!」
「あ、あいっ……」
唐突に西里の戦士だけを襲っていた火竜だったが、突如として雄たけびを上げながら身体を震わせ、苦しそうにその場に倒れ込む。その様子を見て慌ててガロウは巨人族の男に命じると、彼は慌てて火竜の元へ向かう。
「な、何だ!?」
「あの怪物が……苦しがっている?」
「ちっ、仕方ねえ……さっさと檻を戻せ!!」
「あいっ……か、りゅっ……こっちだ」
言葉を上手く発せないのか、巨人族の男は火竜の身体を抱き上げようとすると、ここで火竜は苦し気な表情を浮かべ、その姿を見て巨人族の男は慌てた声を出す。
「しょ、ぐんっ……まずい、このまま……だと、かりゅ、もたない」
「何だと!?くそ、何とかしろ!!」
「また、えさやる……でも、かりゅ、あばれる」
「ちぃっ……仕方ねえ、死なれたら面倒だ!!おい、お前等ここは退くぞ!!」
「ど、どういう事ですか将軍!?ここまできて逃げるなんて……」
「うるせえっ!!死にたくなかったら黙って従えっ!!」
巨人族の男の言葉にガロウは慌てて撤退の準備を行い、その様子を見ていたモルドは戸惑う。しかし、この数秒後にモルドはガロウの言葉の意味を理解する事態が起きる。
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