第771話 3体目の竜種

「火竜、だと……!?」

「な、何だあれは!?」

「あれも竜種なのか!?」



島に暮らすエルフ達は「火竜」を目撃するのは初めてであり、彼等は元々島に存在した地竜、そして外部から訪れた牙竜以外の竜種は見た事も聞いたこともない。


檻から解き放たれた火竜を見ても最初は牙竜と比べると小さく、ペガサスやグリフォンよりも一回りほど小さい。しかし、その恐ろしい姿と自分達に目掛けて降下してくる火竜の幼体に危機感を抱いたエルフ達は矢を放つ。



「撃てっ!!仕留めろっ!!」

「はっ!!」

「放てっ!!」



グランの言葉に戦士達は次々と矢を放つ。まともに当たればカツのような重い甲冑を身に付けた人間でも簡単に吹き飛ばす事は出来るが、火竜は接近してくる矢を全て回避して地上へと降り立つ。



「グガァッ!!」

「くっ、このっ!!」

「馬鹿者、迂闊に近づくなっ!!」



剣を構えた戦士の一人が火竜に切りかかろうとしたが、それを見たグランは慌てて引き留めようとした。しかし、剣は火竜の身体に触れた途端に砕けてしまい、そのあまりの頑丈な鱗に戦士は茫然とする。



「ば、馬鹿なっ!?剣が……」

「ガアッ!!」

「うぎゃあっ!?」



自分に剣を振り下ろしてきた戦士に対して火竜は尻尾を振り払うと、戦士はすさまじい勢いで吹き飛ばされる。小さくても竜種である事に変わりはなく、その力も赤毛熊の比ではない。


外見が牙竜と比べても小さい事に油断していた者達も戦士が一撃で吹き飛ばされた光景を見て恐怖を抱き、すぐに弓を構えようとした。しかし、野生の本能で危険を察した火竜は即座に地上を駆け出すと、戦士の集団へ突っ込む。



「グガァアアアッ!!」

「うわぁっ!?」

「ち、近づくなっ!!」

「くそ、撃てっ!!」

「待て、ここから撃てば仲間にも当たるぞ!?」



火竜が数名の戦士に襲い掛かり、それを確認した他の戦士は弓を構えるが、火竜に襲われている戦士達に矢が当たる可能性があるために仕掛けられない。かといって剣で切りかかろうと火竜の頑丈な鱗には通じず、損傷を与えられない。



「ははっ!!流石は火竜、まだガキとはいえ大した強さだ!!」

「ガロウ将軍、本当に大丈夫なのですか?もしも奴が我々に襲い掛かってきたら……」

「大丈夫だ、問題はねえよ。そうだろう?デカブツ!!」

「……あいっ」



火竜の暴れっぷりをみてガロウは笑い声をあげるが、そんな彼とは裏腹にモルドは恐怖の表情を浮かべていた。別に彼は西里のエルフが襲われる光景を見て同情したわけではなく、火竜が自分達にも牙を向けるのではないかと不安を抱いていた。


しかし、ガロウは巨人族の男に視線を向け、意味深な表情を浮かべる。まるで彼さえいれば自分達は火竜に襲われる心配がないとばかりの余裕にグランは疑問を抱くが、考えている暇はない。



(くっ……この火竜という生物、恐らくは竜種!!このままでは全滅してしまう……ならば、なんとしても奴等だけはしとめなければ!!)



全員が火竜に注意を引いている間、グランはガロウとモルドに視線を向け、これまでのやり取りからこの二人が部隊を取り仕切っているのは間違いない。そして獣人国の将軍を名乗るガロウに視線を向け、彼は息子のアランに声をかけた。



「アラン、二人で奴を仕留めるぞ」

「ち、父上……!?」

「奴等が火竜とやらを操っているのならば、もしかしたら奴等を仕留めればあの怪物の暴走も収まるかもしれん。やるしかない、行くぞ!!援護は任せた!!」



グランはアランを残して駆け出し、まだ火竜に夢中になっているガロウの元へと向かう。グランがガロウに狙いを定めたのはモルドは火竜の存在を恐れている事から彼が火竜を操作する存在ではないのは明白であり、先ほどから余裕の態度を崩さないガロウを先に仕留めることにした。



「覚悟しろ、ガロウ!!」

「あんっ!?」

「ちぃっ……させませんよ!!」



敢えてグランは声を出して自分が接近している事を知らせると、ガロウは顔を向け、モルドは風魔結界を発動させようとした。しかし、それよりも早くアランが弓を構えると、矢を放つ。



「父上っ!!」

「風魔……うぎゃあっ!?」

「でかしたぞっ!!」



アランが発射した矢は見事にモルドの腕に的中し、彼は悲鳴を上げてその場に膝を崩す。その様子を見てグランは笑みを浮かべ、モルドの頭を踏み台にしてガロウへと飛び込む。


ガロウの首元に目掛けてグランは剣を振りかざし、確実に仕留めるために空中で刃を放つ。しかし、それを見てガロウは腰に装着していた二つの手斧を掴むと、彼は笑みを浮かべてグランよりも早く斧を振り払う。



「惜しかったな!!」

「ぐああっ!?」

「父上ぇえええっ!?」



振り抜かれた手斧によってグランの胸元に十字傷のような傷跡が誕生し、彼の身体は地面に叩きつけられる。そんな彼をガロウは見下ろし、手斧にこびり付いた血液を舐めとる。

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