第766話 光の勇者
「う~ん、俺が勇者の末裔だとは思えないんですけど……」
「まあ、レナ君が本当に勇者の血筋なのかは分からないが……現状では勇者の装備を扱えるのは君だけだ。これは只の偶然とは思えない、もしかしたら勇者の装備を扱えるの勇者の血筋の人間の可能性もある」
「そうですか?」
レナは渡された勇者の盾と水晶剣に視線を向け、確かにこの二つの装備は付与魔術師であるレナと相性が良かった。他の者は触れた瞬間に魔力を奪われて使いこなせない事を考えてもルイの説は信憑性が出てきた。
しかし、元々はこの勇者の装備品は大陸からエルフ達を移住させた勇者の所有物である。つまりレナと同じ能力を持っていたと思われる重力の勇者の所有物ではなく、付与魔術師と相性が良いという点には疑問があった。
「この装備は重力の勇者が身に付けていた装備品じゃないんですよね。なのになんで付与魔術師と相性が良いんでしょうか?」
「もしかしたらだが……この島に召喚された勇者も付与魔術師だった可能性があるんじゃないか?」
「えっ!?」
「待ってください、団長!!付与魔術師の称号を持つ勇者がいたなど聞いた事がありませんよ?」
「それをいったら重力の勇者が付与魔術師だった事も今の時代には伝えられていないじゃないか。そもそも歴史上に語られる勇者達はその能力の凄さは伝えられていても、具体的にどのような称号を所有していたのかまでは伝えられていない者も多い」
『言われてみればそうだな……そもそも勇者の奴等は「勇者」その物が称号だと思ってたぜ』
過去に召喚された勇者は誰もが偉大な功績を残しており、どのような能力を扱っていたのかは伝わっている。しかし、肝心の彼等の称号に関しては実を言えば明かされていない。
カツのように一般人の間では「勇者」そのものが称号だと考え込む者も少なくはない。そして大陸からエルフを運び出した勇者と重力の勇者がレナと同様に「付与魔術師」の称号を持っていた可能性は否定きなかった。
「ここまでくると勇者の事も気になるな。この装備品を残した勇者はどのような能力を扱うのか教えて貰えないか?」
「我々も詳しくは把握しておらぬが……だが、伝承によれば我々をここまで導いた勇者様は「光の勇者」と呼ばれていたそうじゃ」
「彼が水晶剣を手にしたとき、神々しい光が放たれて邪悪を滅した……という伝承も残っております」
「光の勇者!?それはこの世界に最初に誕生した勇者の事では!?」
光の勇者の名前は大陸でも有名であり、なにしろこの世界で最初に召喚された伝説の勇者の異名でもある。光の勇者は召喚された時代は各国が争い合い、世界各地で戦が絶えない「乱世」の時代だったという。
召喚された勇者は乱世を治めるために世界各地に足を運び、戦を集結させた。その偉業から彼は「平和をもたらす希望の光」と称えられ、いつの間にか光の勇者という名前が定着していた。しかも戦争のさなかに大陸各地の住処を失ったエルフを集め、大陸の外にある島に移住させていた事を考えても光の勇者は只者ではない。
「全く、信じられないな。どうやらレナ君が手に入れたのは光の勇者の装備品らしい」
「あの伝説の初代勇者の剣と盾を手にするなんて……」
『畜生、俺も装備したかったぜ!!』
「う~ん……これを受け取るのは躊躇するな、別に俺は勇者でも何でもないし」
レナは渡された水晶剣と勇者の盾に視線を向け、困った表情を浮かべる。どちらも素晴らしい代物である事は間違いないが、本音を言えばレナの手に余る代物だった。価値としては国宝どころか世界遺産並はあると思われるが、そもそも勇者ではないレナが所持していてもいい物かと思う。
「まあ、とりあえずは勇者の事は置いておくとして……族長、今回の目的はこれで果たされたのですか?」
「うむ、ご協力感謝いたします。今後、我々西里と南里のエルフは互いに協力し合って生きていこうと思います」
「皆様のお陰でこの島の脅威は完全に取り払われました。感謝してもしきれませぬ……」
「そうかしこまらないでください。それより、東里の族長とも話し合うんですか?」
「うむ、その事に関してなのですが……東里の件に関しては我等の方で対処します。これ以上に皆様には迷惑を掛けられませんので……」
『本当か?じゃあ、ダンゾウの奴は解放してくれるのか?』
「当然でございます、勇者様のお仲間だとは知らずに大変失礼な真似をいたしました。すぐにダンゾウ殿も解放しましょう」
「やれやれ、勇者の仲間と来たか……一応は僕が団長なんだがな」
「よろしいではないですか。これで王都へ戻れるのですね」
ルイは族長の言葉を聞いて苦笑いを浮かべ、彼等にとってはレナは勇者と認定し、ルイ達の事はレナの仲間だと思い込んでいた。立場上はレナの上司であるルイからすれば複雑な気分に陥るが、ダンゾウが解放されれば王都へ帰還できた――
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