第767話 西里の異変
――南里の族長との会合も無事に終わり、晴れて西里と南里の和解は達成された。レナ達はすぐに西里へと引き返す。後はダンゾウを解放して貰えば湖の近くに存在する転移台を使用すれば王都へ帰還できるはずだった。
「やれやれ、最初は新しい大迷宮に入れるのかと思ったが、まさか光の勇者が関わる島に辿り着くとは思わなかったよ」
「そうですね、ですが残念ながらこの島では価値のありそうな素材の回収は難しそうですね」
『そうだな、珍しい魔物も結構見かけたが、あんまりやり過ぎると島の住民に迷惑をかけるしな』
通常の大迷宮はどれだけの魔物を倒そうと新たな魔物が出現する仕組みになっているが、この島は外の世界に存在するため、当然だが魔物を乱獲すれば生態系が崩れてしまう。
残念ながら冒険者の視点からすればこの島は資源には乏しく、しかも光の勇者に関わる重要な場所としればヒトノ国も丁重に対処しなければならない。レナに渡された水晶剣と勇者の盾もヒトノ国へ引き渡す可能性もある。
「そういえばレナ君、その水晶剣はどんな感じなんだい?カツを相手にちょっと試し切りしてみたらどうだ?」
『おい、止めろ!!勇者の武器で斬られるなんて冗談じゃねえぞ!?』
「う~ん……特に今のところは普通の剣と何か違うのか分かりませんね」
ルイの言葉にレナは背中の水晶剣に視線を向け、勇者の盾と同様に特別な力があるのかと期待したが、今のところは付与魔法を施せば水晶剣が紅色に光り輝く程度しか判明していない。別に普通の剣でも付与魔法を発動させれば魔力が全体を覆い込むので外見にあまり変化はない。
実際に使用して見なければ水晶剣の性能は確かめられず、帰還する前に水晶剣の性能だけでも確かめようかと考えた時、ここで同行していたアルフが声を上げる。
「あ、あれは……!?」
『どうした爺さん……何だ?煙?』
「いや、あれは……狼煙ではないですか?」
西里の方角から多数の煙が上がっている事に気付き、不審に思ったレナ達は急いで西里の方向へ駆けつける――
――エルフが暮らす岩山の集落へと引き返したレナ達は目の前の光景に唖然とするしかなく、アルフと彼の家族が暮らしていた岩山が崩壊していた。いったい何があったのか傷だらけのエルフ達も地面に横たわり、その中にはアルフの息子のグランと孫のアランも存在した。
「こ、これはいったい……何が起きたのだ」
「ぞ、族長……ご無事だったのですね」
「お前達、何が起きた!?」
流石のアルフも興奮を隠しきれず、怪我をしたエルフを抱き上げると彼等にこの場で何が起きたのかを問い質す。ルイもすぐに怪我人の治療のために動き、一方でカツの方は岩山の瓦礫を退かして地下の牢に匿われていたはずのダンゾウを探す。
『ダンゾウ!!おい、ダンゾウ!!どこにいやがる!!』
「カツ、落ち着きなさい!!地下牢にいた者はここにいますか?」
「い、いや……俺達は見ていない」
「という事はまだ地下に閉じ込められて……!?」
崩壊した岩山の地下にダンゾウが取り残されている可能性があり、すぐにレナもカツと協力して瓦礫の撤去を行う。その間にルイは怪我をしたエルフから事情を尋ねる。
「いったい、何が起きたんだ?落ち着いてゆっくりと話すんだ」
「や、奴等が……奴等が現れたんだ」
「奴等?奴等とは誰の事だい?」
「まさか、東里の連中が……!?」
アルフは東里の者達が攻めてきたのかと焦るが、彼の傍で横たわっていたグランは起き上がり、痛む身体を我慢しながらも答えた。
「ち、違う……襲ってきたのは東里の連中ではない、獣人族だ……」
「獣人族!?この島には獣人族も暮らしているのですか?」
「馬鹿なっ……有り得ん、この島には我々以外の種族は暮らしていないはず……!?」
「嘘ではありません、獣人族の連中が……突如、我々に襲い掛かってきたのです」
グランによるとルイ達が出発下後に多数の獣人族と思われる兵士達が襲い掛かり、西里の戦士達は応戦してどうにか撃退に成功した。しかし、戦士の大半は負傷し、更には族長とその家族だけが住む事を許された岩山は破壊されてしまう。
獣人族の兵士達が何処から現れたのかは不明だが、彼等の目的は西里のエルフの殲滅ではなく、獣人族の兵士はある物を探していた事が発覚する。
「奴等の目的は光の勇者の所有物……我が里に伝わる盾を探していました。族長、奴等は恐らくは大陸から訪れた軍隊です……」
「大陸からじゃと……そんな馬鹿な、どうやって上陸を果たした!?」
「わ、分かりません。しかし、奴等はとんでもない魔物を従えていました。我々の暮らしていた岩山も破壊されてしまいました」
「魔物に破壊された?では、これは魔法の力で破壊されたのではないのですか!?」
イルミナはグランの言葉に驚き、無残にも破壊された岩山の住居を確認した。アルフたちが暮らしていた岩山は全長が15メートルは存在したが、現在では跡形もなく粉々に砕け散っていた。
これほどの岩山を破壊できる生物などそれこそ「牙竜」などの竜種程度だと思われるが、そんな生物を従えるなど「魔物使い」であろうと不可能に近い。
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