第765話 島を救った勇者

――時は先登り、まだゲルトが子供だった頃、牙竜が現れる前の時代にも島に暮らすエルフ達は全滅の危機を迎えた事があった。かつてこの島は勇者が見つけ出し、大陸で暮らす場所を失ったエルフ達をこの島へと運び出した。


勇者のお陰で大陸から訪れた4つの部族は島の東西南北に里を作り出して暮らしていたが、この島に運び込んだ勇者が死亡してからしばらくの時が経過すると、大陸の大国が軍隊を派遣して島に乗り込んだ事がある。


軍隊の正体は不明だが、彼等の目的は島に残された勇者の「装備品」がこの島に暮らす里の森人族たちが保管している事を知り、それらを奪うために大勢の兵士が送りこまれた。里に暮らすエルフはこの時ばかりは東西南北の里の族長も手を組み、なんとしても勇者の装備品を守るために戦ったという。


現在は岩山に取り囲まれている島だが、実は当時は島に入り込める箇所が存在した。この大陸にエルフの乗せた船を運び出すため、あろう事か彼等を連れてきた勇者はどんな方法なのかは不明だが、島を取り囲む岩山の一つを破壊し、停泊できる場所を作り出していた。


大陸から派遣された船は次々と勇者が残した道を通って島内に乗り込み、エルフ達と争う。島内に暮らすエルフ達も必死に抵抗を試みたが、数の暴力によって徐々に追い詰められ、遂には滅亡の危機を迎える。




――そんな時に現れたのが「重力の勇者」と呼ばれる存在だった。彼は突如現れて島へと乗り込んだかと思うと、あろう事か島にエルフを呼び寄せた勇者が破壊したという「岩山」を再び作り上げたという。




重力の勇者がどのような方法を用いて岩山を再び築いたのかはエルフ達には分からなかった。だが、彼のお陰で島の周囲が全て岩山に取り囲まれた事で軍隊も近づく事が出来ず、島に乗り込む術を失う。


結局は島に軍隊を送り込んだ大陸の大国はこの時の被害で戦力が大きく激減し、結局は他国に攻め滅ぼされたと後にエルフ達は重力の勇者から話を聞いた。彼等は自分達を救ってくれた重力の勇者を英雄と崇め、彼こそが自分達をこの島に送り込んだ勇者が告げた「次世代の勇者」だと確信し、装備品を提供しようとした。


しかし、重力の勇者は島のエルフが差し出した勇者の装備品の受け取りを拒否する。彼曰く、自分がそれを持ち帰れば新たな災いの種となる。だからその装備品はこの島に訪れるであろう人間に渡すように促す。




島内のエルフ達は重力の勇者の言葉に従い、大陸からの来訪者が現れる時まで勇者の装備品を守り続ける事を誓った――






「――これが儂の知る全てです。きっと、貴方様は重力の勇者様が導いてくれた御方……どうか我が里が代々守り続けてきた剣をお受け取り下さい」

「重力の勇者がこの島に……!?」

『マジかよ!!信じられねえな……しかも爺さんの話だとレナみたいに重力の勇者も付与魔術師だったのか!!』

「まさか重力の勇者がこの島に訪れていたとは……」

「重力の勇者に関する文献は非常に少ないですが、それでも私の記憶の限りだとこの島に関わる内容は見た事も聞いた事がありません」



ゲルトの話を聞き終えたレナ達は驚きを隠せず、まさか重力の勇者もこの島に関わっているなど思いもしなかった。しかも彼は岩山を作り出せる程の地属性の魔法の使い手だと判明する。


大魔導士であるマドウも地形を変化させる魔法は扱えたが、重力の勇者の場合は規模が違い、彼は岩山その物を築き上げた。当然だがそんな真似はレナには出来るはずがなく、当時の重力の勇者の実力の高さが思い知らされる。しかし、気になったのはどうして重力の勇者が島の森人族たちを守ったかであった。



「どうして重力の勇者はこの島に訪れたんですか?」

「その理由については重力の勇者様は何もお答えしませんでした。ですが、これは予想ですが我が島に訪れた軍隊は重力の勇者様と敵対関係にあった……つまり、重力の勇者様は軍隊を派遣した国と対立していたのは間違いありません」

「なるほど、という事はその大国と戦うために重力の勇者はこの島のエルフと手を組んだと考えるべきか」

「我々にとっては理由などはどうでもいいのです。あの御方のお陰で我々は救われた……そしてあの御方の末裔であるレナ殿がこの島に訪れ、あの御方が受け取るはずだった勇者の装備を受け継いだのです」

「いや、別に俺が重力の勇者の末裔と決まったわけじゃ……」

「いいえ、貴方は間違いなく重力の勇者様の子孫です。直にあの御方に出会った儂には分かります、あの御方の魔力とレナ様の魔力はよく似ておられる」



アルフもゲルトもレナが重力の勇者の末裔だと信じており、実際に重力の勇者と遭遇したゲルトによるとレナと重力の勇者と呼ばれた人物の魔力は瓜二つだという。実際にどちらも地属性の魔法の使い手であり、付与魔術師の称号を所有している。その事を考えればレナが重力の勇者の末裔である可能性は非常に高かった。







※前にも書きましたが、ここでやっとレナの先祖が明かされました。この話をするためにどれだけの時間を費やした事か……(;´・ω・)

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