第763話 勇者の盾VS最強の矢

『うおっ!?凄いなあいつ……口だけじゃねえぞ、本当にたいした一撃だ』

「1本の矢であれほど大きな樹木を破壊するなんて……」

「そういえばカツもたったの2本の矢で吹き飛ばされていたな」



ブナンの一撃を見てカツは感心してイルミナは驚くが、ルイは西里の戦士であるアランとグランと遭遇した時、彼等が所持していた指輪の事を思い出す。


二人が放った矢もブナンと同様にすさまじい威力を誇り、甲冑を身に付けていたカツが吹き飛ばされる程である。二人を拘束した時に指輪らしき物を装着していた事を知り、恐らくはこの指輪が特殊な魔道具で弓の威力を上昇していたのは間違いない。



「ええ、我々は指輪型の魔道具を使用する事で武器に風属性の魔力を付与させ、攻撃威力を上昇させる事ができます。この魔道具の事を我々は「魔法指輪マジカルリング」と呼んでおります」

「魔力を付与させる……それって、付与魔法みたいですね」

「なるほど、あの指輪にはそんな効果があったのか。だが、僕達が触った時は特に反応はしなかったな」

「指輪は扱えるのは制作者のみです。指輪の製作には自分の血を使う必要がありましてな、他人が所有している魔法指輪では使用する事は出来ません」

「そういう事だったのか」

「何を話し込んでいる!!怖気ついたのか!?」



レナ達がアルフから話を聞いているとブナンが大弓を見せつけ、自分と勝負する気が無くなったのかと問う。そんな彼の態度にカツは苛立ち、レイナに声をかけた。



『調子に乗りやがって……おい、レナ!!あんな奴の攻撃なんて跳ね返せ!!』

「あ、はい。分かりました」

「まあ、矢で攻撃するなら跳ね返しても問題はないだろう。やってしまえ、レナ君」

「油断しては駄目ですよ」



勇者の盾を装備したレナが前に出ると、ブナンは大弓を構えて矢を番える。若干、緊張した面持ちで彼は大弓に矢を番えると狙いを定める。


ブナンは南里の戦士長として長年の間、外敵から南里を守り続けた。時には襲撃を仕掛けてきた牙竜を相手に戦う事もあり、南里の戦士の代表として常に前線で命をかけて戦ってきた。そんな自分が年若い少年にしか見えない人間に負けるわけにはいかないと彼は気合を入れた。



「行くぞ!!喰らえ、我が全身全霊の一撃を!!」

「っ……!!」



盾を構えたレナに向けてブナンは矢を発射すると、矢は見事に狙い通りにレナが装備している盾に向けて接近する。鋼鉄の盾であろうとブナンの放った矢の威力なら貫通するが、迫りくる矢に対してレナは勇者の盾に魔力を注ぎ込んだ瞬間、盾の前面に紅色の魔力が宿る。



「くぅっ!!」

「なにぃっ!?」

「せ、戦士長の矢がっ!?」

「止まった!?」



盾に矢が衝突すると思われた瞬間、矢は勢いを落として盾に触れる前に停止する。その光景を見た者達は驚くが、次の瞬間には矢はあらぬ方向へ弾き飛ばされてしまい、それを見たブナンは愕然とした表情で膝を崩す。


自分の最強の一撃があっさりと跳ね返された事にブナンは唖然とするが、一方でレナの方は盾を見て驚いた表情を浮かべる。衝撃に備えて待ち構えていたが、先ほどの一撃でも盾は矢に触れる事もなく跳ね返した事にレナ自身も驚く。



(この盾、本当に凄い……これが勇者の盾か)



レナはブナンの方に顔を向けると、彼はしばらくの間は顔を伏せていたが、やがて立ち上がるとレナの元へ近づく。まだ何かをする気かと他の者達が待ち構えると、ブナンはあっさりとレナの前で頭を下げた。



「……俺の完敗だ、この勝負は貴方の勝ちだ」

「えっ?」

「ふふ、こうも見事に負けしまってはむしろ清々しい……勇者殿、今までの無礼をお許しください」

『お、お許しください!!』



戦士長が跪くと、他の者達も戸惑いながらも膝を付き、今までの無礼を詫びる。そんな彼等の姿に西里の族長は頷き、無難に声をかける。



「ブナン戦士長、これで分かったであろう。彼こそが我々が待ち続けた勇者殿の末裔……さあ、すぐに南里の族長に話を通してくれ」

「分かりました。ではしばらくお待ちください、すぐに族長に連絡を伝えてきます」

「うむ、頼んだぞ」

『何だ、意外と話の分かる奴だったんだな』

「こら、カツ……余計な事を言うんじゃない」



ブナンの態度の変化にカツは感心したような声を上げ、てっきり負けた事に対して言い訳を述べるのかと思ったが、流石に部下の間でみっともない姿は見せない辺りは戦士長としての器を伺えさせた。


言葉通りにブナンは密林に戻ると、しばらく時間が経過した後に戻ってきた。この時に彼の傍には数名の若いエルフの女性と、年老いた老人のエルフが同行していた。彼等はファングとは異なる狼型の魔獣に乗り込み、レナ達の前に姿を現す。

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